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動き出した大和 甦る翔鶴 そして、新たな敵の脅威
【第2章】
1. 1945年8月15日正午過ぎ――。沖縄戦終結間際の悲劇! 米軍機の空襲を受けて大破着底していた大日本帝国海軍最後の希望、戦艦大和が復活を遂げようとしていた! 南国の太陽が照りつける中、大和の残骸が動き出した。
「こ、これは……、一体……?」
誰もが唖然とした。全長263メートルの巨大戦艦は、今や原型を留めぬ鉄屑の塊だ。
「動くはずなどない、幻か?」
「蜃気楼だ」
「きっと、硫黄島沖で沈んだんだ」
人々は口々に言い合った。
しかし、確かに動いているのだ。
鋼鉄の軋む音は悲鳴のように聞こえる。あるいは、死者の呻きであろうか。
海面下から姿を現した甲板上を、一人の少女が歩いている。
まるで天使のような純白の衣装に身を包み、輝く金髪を揺らしている。
彼女は悠然と進み、舷側から身を乗り出して水平線の彼方を見詰めていた。
「おおっ!」
人々の口から一斉に歓声が上がった。
少女の背後には、巨大な影がそびえ立っていた。
それはまさに鉄の城だった。
全高60メートルを超える巨塔には、無数の砲塔が天を突いている。
一対の目のごとく屹立する二連装四十六センチ三連砲。圧倒的な火力を誇る四十口径46サンチ砲。分厚い装甲に守られた八門の副砲群。そして、それらを束ねる司令塔。
これこそが世界最大の戦艦にして世界最強を誇った日本海軍の象徴、不沈空母・翔鶴型航空母艦一番艦『翔鶴』である。
「やったぞ、ついに甦った!」
「我らが日本の守護神だ!」
歓喜の叫びの中、少女はふわりと舞い上がり、艦橋へと姿を消した。
2.
『提督!』
通信機を通して少女の声が響く。
『こちら瑞鳳です。敵機発見しました』
「よし、すぐに向かおう」
『はい』
男は通信を切り、椅子から立ち上がって窓の外を眺めた。
青い海と空が広がるばかりで、敵機の姿などどこにもない。
(幻覚か)
彼は自嘲気味に笑い、椅子に腰を下ろした。
ここ南太平洋上の孤島に海軍特殊戦略研究所はある。
この研究所の主である彼は、南雲忠一中将という。
南雲は先月に勃発したミッドウェー海戦で主力空母を失い、失意のうちに本土へ帰還したばかりだ。今は心身ともに疲労困憊している。そこへ来て連日の猛暑だ。暑さに弱い南雲にとっては地獄も同然だ。
(やれやれ、早く夏が終わってくれないものか)
彼は机に肘を突き、大きなため息をついた。
そんな時、不意にドアがノックされた。
「誰だ?」
『私です』
南雲は顔をしかめた。彼の執務室を訪れる者は少ない。それもこんな時間に来る者は限られている。
南雲はドアを開け、訪問者を迎え入れた。
予想通り、そこには海軍の軍服を着た美しい女性が立っていた。
彼女の名は天城美沙子大佐。南雲の部下であり、同時に恋人でもある。
南雲が不在の間は彼女が代理を務めているため、実質的に南雲の秘書役だ。
「どうした?」
南雲の問いに、天城は答えた。
「お忙しいところ申し訳ありません。実は先ほど……」
南雲は眉をひそめた。天城の表情が硬い。何か重大な問題が起きたに違いない。
「何があった?」
「あの、これをご覧ください」
そう言って、彼女は一枚の紙を手渡した。
南雲はそれを受け取り、目を通した。
『極秘』の印鑑がある書類のコピーだ。彼は眉をひそめ、文面を読み上げた。
「本日未明、呉工廠にて新型爆弾の製造に成功したとの報告あり」
「新型爆弾!?」
思わず声が裏返ってしまった。南雲は慌てて周囲を見回した。幸いにも、ここには自分と彼女しかいない。ホッと胸を撫で下ろすと同時に疑問が湧いた。なぜ自分に報告するのか? すると、彼女は言った。
「その文書によれば、新型爆弾とは水素爆弾のことらしいのです」
「……なるほど」
水素爆弾と聞いて合点がいった。確かに、今の日本にこれに対抗しうる兵器はない。
1944年12月8日、アメリカは原子爆弾の開発に成功したと発表した。広島への投下実験では半径数十キロの範囲で熱線による殺傷効果が確認されたそうだ。日本はこの恐るべき新兵器に対して有効な手段を持ち合わせていない。だが、もし対抗できるとすれば水素爆弾しか考えられない。
しかし、それを開発するのは容易ではないはずだ。なぜなら、核分裂反応をコントロールするにはウラン235が必要である。ところが、日本近海の海底には天然ウランがほとんど存在しないのである。せいぜい、ごく微量な量の重水鉱床が確認されている程度だ。これでは核兵器を作るどころか、原爆の材料を製造することさえできない。つまり、現時点ではまだ実用段階にないのだ。それなのに、どうして……!? 南雲は再び紙面に目を落とした。続けて読むうちに顔が強張っていくのがわかった。彼が知る限り、このような物を作り出せる国はアメリカ以外にないはずである。まさか……!?
「やはり、ドイツの仕業でしょうか?」
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