秘め事だらけのラブソング

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 惑星ティアーズは月にピタリと重なるように存在する外部から認識されていない惑星である。少なくともティアーズに住む者達はそういう教育を受けていた。彼らの役目は地球の監視。かつて地球の存在が故にティアーズは一度滅びたことがある。伝承では地球人の闇がティアーズ全土を侵し、それにより人の精神が壊れ明確な敵味方もなく争い合って滅びた。そういう話だ。地球は危険な星。それが一般的な認識だ。普段がどんなに美しい青い星だとしても油断してはならない。  ティアーズには魔法も科学もある。どれほどの力を持つかで身分は生まれるが最上位は星の精神体である。惑星ティアーズが意思を持ち、人型を取って人々の前に現れる。彼は絶対的な身分制度を嫌った。個人個人の生き様を重視し、可能性に手を伸ばせる世界を望んだ。けれど強大な力を振るえば壊し過ぎるため、星の意思を伝える神官が選ばれ、結果的に彼らが中枢を担うようになった。  ずっと変わらぬまま保たれると思っていた秩序が大きく揺らいだ。25年前、ティアーズが地球の姫を伴侶に選んだこと。姫はセリカという。肩ほどの黒髪、華奢な体躯。そして10年後、絶対的なはずの契りを破棄し姫がティアーズと離縁した。直後、ティアーズが時空嵐に巻き込まれ行方不明になったこと。  精神体が行方不明になって、星は活動を低下させていった。人が住める状態を守っていたのは星の環境、つまり星の加護。精神体がいなければ加護はない。それが明らかになった時、当然ながら神官はパニックになった。このままだと星が滅びる。  その時だ。セリカが星の中枢に現れ、手を翳した。数分でティアーズはエネルギーに満ちた。あっけにとられる神官を肩越しに見てセリカはぽつりと言った。  「一応、ティアーズの妻だったからね」  以来、ティアーズの民のために縁が切れたはずの姫がティアーズの役割を肩代わりしている。セリカは40を越える歳であるはずだが婚姻の影響か20代に見える外見を留めたまま今日も淡々と星に力を行き渡らせる。  星と同等の力を持つセリカに恐れの感情を隠さない神官たち。セリカは割に合わないことをしていると言いたげな表情で肩を竦めた。  「あんた達は正直好きじゃないけれど、ティアーズは嫌いじゃないからさ。戻るまでは手を貸してもいい。それとも滅びる?」  答えなんて一つしかない。神官たちは民に詳細を隠し、セリカの救いに頼った。星をエネルギーで満たすこと。ティアーズ並みの力が必要な案件の相談。忌むべき地球の姫がティアーズの伴侶になったことも納得できなかった彼らは、セリカの力を借りることの複雑な気持ちを抱えて頭を垂れる。セリカはそれを気に食わなそうに見ていた。
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