第三話 仲間たち

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 カフェオレ猫は、今はもう人間に見える。抜けるように白い肌と薄い褐色の髪。瞳の色も髪と同じ色だった。さまざまなルーツを持っていることがわかる。大陸のずっと西の方の生まれかもしれない。人懐こそうな笑顔で真咲にすりよってきて握手を求める。握った手は真咲よりずっと小さかった。 「俺は遠津川(とおづがわ)シオン、一年。同学年だね。この人たちは先輩だよ。紺野(こんの)さんと丹色(にいろ)さん。二色セットで覚えやすいでしょ」  ――二色セット。……ああ、紺色と丹色、つまり紺と赤ってことか。 「ずいぶん雑な紹介だな」  シオンの紹介に呆れた声を出したのは、丹色――茶褐色のしなやかな猫だった。人間の彼は細いメタルフレームの眼鏡をかけていて、柔和な印象。彼も全体に色素の薄い容姿だったが、ルーツは真咲と同じくこの島国らしい。 「丹色空也(くうや)、三年です。よろしくね」  彼からも握手を求められる。シオンの距離の近さに比べれば、見た目にたがわぬ紳士的な態度だと思った。 「紺野鷹志(たかし)です。丹色と同じく三年」  銀灰色に黒縞の大きな猫は、黒い短髪と切れ長の黒い目が精悍な印象だった。何かスポーツをしているのか、服の上からでも鍛えた身体つきが見てとれる。 「紺野さんは、丹色さんの彼氏なんだよ」  シオンが軽い調子で言うので真咲は驚く。 「シオン、お前さあ」 「そうやってすぐバラすの、どうかと思うぞ」  紺野と丹色が同時に声を上げてシオンをたしなめる。しかし腹を立てている雰囲気はない。どこまでものんきで穏やかだ。シオンも両手を頭の後ろに組み、大げさに口をとがらせる。 「やだなぁ、牽制したんだよ」 「何の牽制だよ」 「だって一つ屋根の下で暮らすんだからさ。新人君が紺野さんや丹色さんに惚れちゃったら困るでしょ」 「お前がいちばん危険だろうが」  シオンは先輩たちの小言に耳を貸すふうでもなく、また真咲ににっこりと笑いかける。 「ねえ、お名前は?」  すっかり彼らの雰囲気にのまれていた真咲は我に返る。 「黒羽真咲です。一年です」 「よろしくね、真咲君。これでサリックスの住人が五人そろったね」 「五人? 俺をいれて四人じゃないんですか」  真咲が首をかしげると、シオンが無邪気なようすで澄々木を指さして教えてくれる。 「五人だよ。だって、玲もここの住人だから」  真咲は驚いて、澄々木の顔を見た。彼は言葉短く応じる。 「澄々木(すずき)(あきら)、一年。このサリックスはうちの親の持ちもので、俺は高校生のときからここに住んでる」 「あ……そうだったのか。同い年か」 「黒羽がここを賃貸契約するなら同じ集合住宅の住人どうしだから、もう敬語とか使わないから。このあと事務所に戻って書類を書いてもらうからよろしく。あと、住人同士のグループチャットがあるからそれも登録推奨」 「わ、わかった」  澄々木の態度や口調が大きく変わったことに気をとられていて、シオンが真咲の耳に手を伸ばしてきたのに気づかなかった。敏感な耳たぶをすうっと触られて思わず声が出る。 「ひぁっ」
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