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恋愛は仕事だ。
少なくとも俺にとってはそうだ。
かといって夜の仕事をしているわけではない。
決まった時間に通うみたいなことは苦手なので、どこかに所属などはしていない。
では、どうやって収入を得ているのか?
それは先に言ったように恋愛だ。
マッチングアプリで女と知り合い、金を借りて生計を立てている。
時には相手の家に転がり込んで住ませてもらうこともある。
当然、借りた金は返さない。
別れる時は一方的に姿を消し、二度と会わない。
連絡はLINEを使っているのでブロックすれば関わることはなくなるし、こちらの個人情報はすべて嘘を教えているので見つかる恐れはない。
なに?
女に金を借りたくらいで生活していけるのかだって?
案外できるんだよ。
元々贅沢したくて始めたというよりは働きたくないからで、慎ましく暮すぶんには稼げる。
なに?
年を取ったらどうするのかだって?
中年になればシワもできるし、これまでのルックスも保てないから長く続けていける仕事じゃないだろうって?
その心配も無用だ。
なぜならば、おじさんになってまで続けようとなんて思ってないからだ。
ちゃんとこれまで稼いだ金を貯めて資産運用してある。
とある米国株を買い続け、資産はすでに5000万円を超えている。
もちろん贅沢はできないが、豪華な暮らしなんて興味ないんだ。
ただ働かずにのんびりと生きていたいだけ。
子供の頃から勉強もスポーツもできなかった俺だが、幸いなことに整った顔、そこそこの身長、食べても太らない体質で得た。
それらを武器に、高校卒業前にこれから自分がどうやったらまともに暮らせるかを考えた。
引きこもろうとも思ったが、うちは母子家庭で、母はもうすぐ六十歳になろうとしているのに、未だにうちに男を連れ込んでいるような女だ。
そんな親は当てにはできない。
さっさと働いて家に金を入れろと言われるか、老後の母の面倒をみなければいけなくなる。
こういう事情から自分の力で稼がねばならないと考え、そこで自分の長所に気がついたというわけだ。
最初はホストクラブやコンカフェで働こうと思ったが、人間関係が面倒なのはわかりきっているし、そもそもそれでは普通に働くのと変わらない。
そこで偶然ネットで見たロマンス詐欺というものから、何かできないかと考えてみた。
ロマンス詐欺とは、主にインターネット上の交流サイトなどで知り合った海外の相手を言葉巧みに騙して、恋人や結婚相手になったかのように振る舞い、金銭を送金させる特殊詐欺の一種だ。
国際ロマンス詐欺、国際恋愛詐欺などとも呼ばれ、現在コロナ禍の影響で、外を出歩けなくなったことで被害が増えているとか。
さらに詳しく調べてみると、その巧妙なやり方が様々なサイトに載っていた。
試しにマッチングアプリに登録してやってみると、意外と簡単にマッチングできた。
当時はまだ高校生だったこともあって若く見えるねなんて返信が来たが、当然プロフィールはすべてデタラメだ。
俺は最初の感触がよかったのもあって、卒業までに新しい仕事の初期費用を稼ごうとアルバイトを始めた。
一人暮らし用の住居に、あとは身なりを整えるための服やアクセサリーなどの費用だ。
この期間は俺の人生の中でももっとも苦痛の時だったが、なんとか乗り切り、高校卒業と共に実家を出た俺は今に至るというわけだ。
そして、今回でこの仕事も終わりにしようと思っている。
「ねえ、緊張してるでしょ。大丈夫だよ。あたしのお兄ちゃん優しいから」
時間は夕食時、都内にある小料理屋で俺は今のカモと一緒に席についていた。
女の名は明暗理后。
年齢は二十歳で、川崎市で水商売をしている。
彼女は夜の仕事をしているとは思えないほど素朴な感じで、常に笑顔を絶やさないタイプだ。
話によると両親を早くに亡くしているようで、たった一人の家族である兄に大事に育てられてきたせいか、他人を疑わない性格をしている。
マッチングアプリのやり取りで知ったが、どうやら俺と出会う前からよく男に騙されていたらしい。
一度騙されて、二度と騙されない人間はむしろ少数派。
実は騙される人間は、何度も騙される。
要するに別の手で騙される。
詐欺師はそれを知っている。
戦争映画の原作をやっていた人がSNSにあげていた言葉だが、的を得ていると思う。
なぜならば理后は、実際に俺に騙されているのだから。
これから俺たちは、彼女の兄と会うのだが。
マッチングアプリで知り合って、それから直接会ってからそんなに日が経っていないのに、もう家族に会うのかと驚かされたものだ。
だが理后にとって兄は親と同じ、いや、それ以上に大事な存在らしく、恋人ができるとすぐに紹介しているようだ。
これまでに、ここまで短期間で女の家族に会ったことはなかったが、まあ問題はないだろう。
理后は、迷子になって電車賃がないと声をかけてきた小学生に、泣きながら金を渡すような女だ。
そんな奴の兄もきっと善人に決まっている。
性格のいい人間は、これから最悪になっていくであろう日本社会ではカモにされるだけだ。
俺はカモにはならない。
頭も悪く、喧嘩も強くはないが、口先とルックスで未来のないこの国を生き延びてやる。
「あッ! やっときたよぉ、もう」
「すみません! ちょっと道が混んでまして!」
店の暖簾から理后の兄と思われる男が、慌てた声を出して現れた。
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