不動産屋社員の見解

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不動産屋社員の見解

 丸安株式会社の総務部に頼まれて紹介したマンションのことで、我が不動産屋に質問があった。何か曰くのある物件なのではないか、と。  いわゆる事故物件と言われるものは、告知義務があり、必ず知らせなければならない。  しかし、いつまで告知するのかというのが難しい。単に「三人まで」というようなやり方だと、単純な話をすれば、各々が一ヶ月しか入居しなかったとすれば、たった三ヶ月でおしまいということになる。  反対に一年とかいう話にすれば、ずっと前の霊が居座って居ることもあると聞くので、これまただめだ。  どこかで、霊の寿命は二百数十年だとか書いてあったので、それならば告知義務の期間は、二百数十年にするべきなのかもしれない。  そんなことを先輩社員に言えば、 「真面目だなあ」 と呆れられた。 「でも、入居する方にしたら、大問題ですよ。  例えば先輩が入居した家にお化けが出て、告知義務の期間が過ぎてるので言いませんでした、なんて言われたらどうします?」 「訴えるな」 「でしょう」  私と先輩は頷き会って、そりゃそうだ、しかたない、と言い合った。 「でもその部屋、本当に何もないんだろう?」  先輩の言うとおり、事故物件でも何でも無い部屋だ。 「そうなんですよねえ」  日当たりも良く、駅からも近く、買い物するにも二十四時間開いているスーパーが近くにあって便利だ。建物もまだきれいだし、虫などが出るという訴えも、排水がどうのという訴えもない。唯一、エレベーターと駐車場がないことがマイナスだと言えるが、全体的に見て、いい物件だ。  それなのに、今回の入居者は、異音を聞いたと言うらしい。  実はその前の入居者も、夜中に異音がすると何度も言ってきた。そして、ある日逃げるように退居して行ったのだ。 「おかしいですよねえ」 「前の前の入居者は、事故で亡くなったらしいけど、家で亡くなったわけじゃないしなあ」 「それ以外の入居者は全員、生きて退居して行ってますしね」  揃って首をひねる。 「もしかしてその事故死した人、よっぽど家に未練があったんじゃないですか」  先輩は一応考えてから、首を振って苦笑した。 「そんなの、おかしくねえか。だったらそこら中に、事故物件が転がりそうなもんだろ」 「それもそうですよね」  二人はううむと唸り、結論を出した。 「きっと続けて、神経の細い人か、幻聴気味の人が入居したんですよ。たぶん」 「そうかあ?どっちも二十代の若い人だぞ。前の人は図太そうな人だったし、今回の入居者も大阪人だし」 「先輩。大阪人が繊細じゃないとか言い出すんじゃないでしょうね。怒られますよ」  最期は冗談に紛らせつつも、入居者の気のせいに違いないという見解で落ち着いたのだった。
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