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翌日、村では合同の葬儀の様な物が執り行われ生き残った村人達は村の外れを墓地として墓穴を掘るのに忙しくしていた
村の七割近くの者が生き残ったとはいえ、男衆の大半は負傷していた
小さな村だと言っても犠牲者は30人程は居る
女、子供、老人達は犠牲になった村人達の亡骸をこのままにしておけないと、会話も無く溢れ出る涙を拭う事も無く黙々と穴を掘り続けている
聞こえてくるのは穴を掘る音と堪え切れなくなった者の嗚咽だげ…
皆泣き崩れたいが今は一刻も早く彼等を埋葬し無ければならない…皆一様にその思いだけで体を動かし続けている
結界の消えたこの村は今度は魔獣に襲われるかも知れないのだ…
村の生き残りの男衆の内割と軽症の者は、町に捉えた賊の生き残りを運ぶ為に夜が開けるギリギリには出発している
傭兵団の内二人が護衛として着いて行っており残りの者達は村人達を手伝ってくれていた
漸く人一人分の穴を掘り終え、他の者達を手伝おうと穴から出ようとするとスッと手を先延ばされる
手を取り、穴から出ると手を差し伸べたのはグレンだった
「ちょっといいか」そういうとグレンはフォースを村長とシルバの元へと連れて行く、二人共に揃って大きな穴を掘っていた、盗賊達の為の物だ…
傭兵団からは森の中に投げ込んで置けば良いと言われて居たが…信心深い心根の優しい村人達は例え村を襲った盗賊達といえども死体を魔獣の餌にする事に抵抗があった様だ…
皆に混じり穴を掘り進めて居るとシルバに
「お前にもディル様のお姿が見えて居るのか?」と訪ねられる
「昨日初めて見た…」
「幽鬼を見たことは?」
「森の中や鉱山でなら…村の中では見たことが無い…」
「妙に感の良い子だとは思って居たが…」グレンが感心したように呟く
「どうして話してくれなかった」村長に訪ねられ
「村には居なかったし…気持ち悪がられると思ったから…」現に鉱山では気味悪がられて居た、恨みをかって幽鬼に取り憑かれた者に話したら逆ギレされ殺され掛けた事もあった…
「普通そうだよな…」とシルバが頭を撫でながら
「お化けが見えるなんざ言ったらこの村の連中以外は気味悪がられるよな…」
「そういえば貴方も亜神様が見えてるんですよね…」
「ああ、村に居る感覚で仲間に話したらドン引きされて…あれにはまいったよ
まあ、そのおかげで生き残れてるんだがな…
なあ…ガキンチョ家に来るか?」
「家ってあんたの傭兵団に?」
「ああ…言い方は悪いが、村の連中はこれからバラバラになる…
奴隷上がりのお前が居たんじゃ邪魔になる…」
「……」
「邪魔だなんて、そいつぐらい俺が面倒をみる傭兵になんか…」
「兄貴はこの村からほとんど出たことが無いだろう、余所じゃ例え解放奴隷といえどもまともな職に就けるヤツなんか殆ど居ない…
まして鬼目持ちの子供なんざどう扱われるか…」
「鬼目?」そういえば鉱山でそんな事言ってた奴が…
「この村じゃ心眼と呼ばれるが、俺たちみたいなのは余所じゃ鬼目持ちって言われんだ
ま、傭兵やるには割と便利だがな…」
「フォース無理をする事は無い…お前一人くらい私達が面倒をみるよ」村長もそういうが…村長も村を捨て叔母の嫁いだ麓の地主の元に小作人の様な形で向かうと言って居た…
今回の襲撃で足を痛めたグレンも同じだ…俺を養おうと思えば相当苦労するはずだ…なのにそう言ってくれて居る…
「ごめん父さん…グレン…俺
俺、あんたと行くよ」シルバに向かいそう話す
グレンも村長も無理に俺を止めなかった、二人と行っても解放奴隷のおれが虐げられるかもしれない事は二人共分かって居たからだ…
あれからもう20年近く経つ、村長夫妻は既にこの世には無く…グレンも10年前戦火に巻かれ亡くなったと聞く…
彼等に恩返しがしたくて送った金はそのまま返って来た…
村を出てから5年後シルバが新たに立ち上げた傭兵団に移籍し今に至る…
俺は守られてばかりだ…
彼等の様に誰かを救える人間になりたいと、戦場でガキ達を拾い助けたつもりでも…いつまでも満たされる事は無い…
救いたかった者達の代わりを探して要るに過ぎないのだ…
それでも差し伸べた手を取る者が要るならば…せめてそれだけでも…
「お~い、おっちゃん生きてるか~寝てねぇだろなぁ~?」間の抜けた呼び声が風呂の外から掛かる
「うるせえなぁ、風呂ぐらいのんびり入らせろ」
「女の子達にも風呂解放してやれよ…長旅でつかれてんだぜ」
「それもそうか…」と立ち上がるとふらりと蹌踉ける…
『こりゃマジで少しのぼせたな…』
「風呂ん中で考えごとなんてするもんじゃ無いな…」と風呂を出る
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