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「うそだ!」即座に文四郎は噛みついた。「おめえはうそをついている」
言ってから、なぜこんなに苛立っているのか自分自身の混乱が信じられなかった。戸惑いがますます気持ちを荒ぶらせた。
「おめえがあんな男を部屋に引っ張り込むわけがねえ!」
「あんな男ってどんな男よ? 亀七のことをろくに知らないくせに」
「一目見りゃ分かる。金勘定しか頭にねえ薄っぺらな野郎さ」
「そんなこと」再び文四郎に向き直ると、お潤はそのまま亀七が抜けたように脇をすれ違った。「あなたにとってはどうでもいいことじゃないの。じゃあ、さよなら」
「おい、お潤」三味線の棹をつかんでいる手首をとらえ、文四郎はお潤を引き寄せた。「あの男はおめえの何なんだ? 本当のことを言ってくれ」
口にしてからドッと汗をかいた。後悔した。なんというセリフだろう。本当のことを言ってくれ、だと?なぜ懇願する? 頭がカッと火照り、耳までが上気した。本当はそんな言葉を投げつけるはずではなかったのに。
首をかしげて、お潤は面白がるようにそんな男の表情をながめている。
「もしかして、妬いてるの?」
「ばか、そんなわけねえだろう」
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