1.辛辣な「伝説の練習生」

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 スタジオの扉が開き、プロデューサーやボーカル・ダンスの講師たちがスタジオに入ってきた。メンバーたちの緊張感が一層高まる中、プロデューサーから一人ずつ評価が言い渡されていく。 「宮苑遥斗」  プロデューサーが分厚い眼鏡の奥から鋭い眼光を遥斗に向けた。背中にピリリと緊張が走り、「はい!」と大きな声で返事をする。 「遥斗は歌の面に関しては申し分ない。既にデビューしている子たちと比べても見劣りしない素晴らしい歌声を持っている。今回の月末評価でもその実力を()(かん)なく発揮してくれたね」  ここまでの評価はいつも通りだ。遥斗は天性のハイトーンボイスを存分に生かした歌声で事務所のオーディションに合格し、新グループのメンバーに選ばれることにもなったのだから。  だが、問題はここからだ。  遥斗が食い入るようにプロデューサーの顔色を窺っていると、彼は評価シートに目を落とし、大きな溜息をついた。  高まる不安に胸が不快な心音を立てる。 「君の最大の課題はダンスだ。これまでの月末評価でも何度も指摘されているから、自分でもわかっているとは思うが……。確かに初めの頃に比べれば成長はしているよ。でも、現状の君を人前に出す訳にはいかない」  プロデューサーは遥斗の顔を見据え、言い出しにくそうに告げた。 「君はグループのメインボーカルとして最有力候補だったんだがね……。残念だが、今回のプロジェクトからは外れて貰うことになった。この調子ではデビューまでに君が人前でダンスを披露できるだけのクオリティを確保するのは難しい。練習生に戻って研鑽を積み、もっと実力を上げてくれたまえ」  最も恐れていた事態が起きてしまった。遥斗は消え入りそうな声で「はい」と小さく返事するのがやっとで、崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
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