スタート

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スタート

それは突然すぎて、唐突すぎた。 夜、小さなゲイバー「アルファ」でビールを一口飲んだ瞬間、けたたましい音を立てて入り口の重厚なドアが外から蹴破られた。 思わず身構えた寺島涼真の横を長身の男が通り過ぎて、今まで座っていたであろう椅子をドアに向けて勢いよく投げつけた。 誰かの悲鳴が聞こえる。男はそのまま傾いたドアを両手で押し倒して外にいる数人にぶつけて自身も店の外に出ていった。 「マス…、いやママ。な…何?何が起こったの?」 涼真はわざとらしく動揺してみせた。店内には他にも数人客がいたがその人間たちは固まったままだった。 こういう荒事には職業上慣れているが、偵察開始初日でこんな事は珍しい。 ぽっかり開いたままのドアの向こうに、白くて長いローブを纏い、ある宗教徒ふうのマスクをかぶっている集団が見えた。どうも狭い廊下で1対数人で肉弾戦を展開しているようだった。悲鳴とともに人間が吹き飛ばされている。 加勢してターゲットに近づくチャンス。自分が組み立てたシナリオと違うが現場の判断は自分でする。 予想どおり男は一人で数人を相手していた。センターに分けて耳あたりで揃えた綺麗な黒髪が顔にかかる。それでも男から放たれる色気に圧倒された。 特に眼。一瞥で体中に電流が流れる錯覚に陥りそうだった。そしてみるからに高価そうな革ジャンの裾を翻して一発で相手を落としていく。 「おい!ひとりに多勢はダサくねーの!?」 白い集団の後ろから涼真が叫んだ。ベビーフェイスで薄いブルーのパーカーを着ていた涼真に集団の動きが一瞬止まった。戦力にみえなかったのだろう。 後方が油断して棒立ちしていた時も、美しい男は前にいるひとりと肉弾戦を続けていた。 「ぃ…っ!!」 喉に詰まる悲鳴と、白い人間の拳が男の左脇腹をえぐった鈍い音が聞こえた。 涼真が集団をかき分けて前に出て白い人間の手首を掴んだ時『こいつ強い』 と感じた。涼真の手をふり払って白い人間の体が涼真に覆いかぶさるように正面を向いた時、その背後から男から肘打ちが来たが、白い人間はその攻撃を見もしないでふらりとよけた。 目の所だけ布がないマスクから顔が少しだけ見えた。 女だった。
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