28話

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28話

「ヒーラギちゃん! ウチの子はいい子のなの、ブランをもらってやって!」  こ、困る。  私は8歳から18歳の最近まで王城にいて。  婚約者だった殿下には嫌われていて、男の人と付き合ったことがない。まだ知り合ったばかりのブランとは、ゆっくり付き合って、恋人になって結婚でいいと思う。 「……ブラン、私」 「母さん、もう辞めてくれヒーラギが困ってる……ロン師匠、スラは見ていないで一緒に止めてくれよ。ヤン、リコでもいい」  外での騒ぎに家から出てきたヤンとリコに、ブランは真っ赤な顔で、自分では止めれないから『止めてくれ』と、求めた。 「だって、私は早く、ブランの子供が見たいの!」 「子供だって? 母さん、まだ先の話だよ」 (ブランが焦ってる……)  助けてと言ってもロンさん、スラ、ヤンさん、リコさんはどうしてなのか、お母様に躊躇して誰も止めない。  どんどん暴走するお母様。  そこに。 「ジジ! いきなり服を脱ぎ捨てて、家を飛び出したと思ったら……こんな所でブランに迷惑をかけていたのか? ジジ、周りにも迷惑をかけているぞ!」  茶色い耳と短な髪、モフモフの茶色い尻尾、シャツにスラックス姿のガタイのいい男性が現れた。周りを見れば、他にも村の住民がここに集まってきていて、私達を遠目に見ている。 「ジジ!」 「トール君、ヒーラギちゃんこんなに可愛のよ。ぜったいに逃しちゃダメ!」 「それはわかっている! だがな、ジジ! ワタシはその姿を他の男性に見せたくないのだが……着替えてくれないか?」  そうだ、気になってはいたけど……やっぱりブランの時と同じ。お母様はマントで上手く隠れているけど……マントの下は裸なんだ。トールと呼ばれた男性は持ってきた服を、お母様に渡した。 「早く、着替えなさい!」 「わかった着替えてくる。ブラン、家を借りるわね」 「ああ」  お母様が家に入って行き、ブランは『ホッ』とした様子で、服を持って追っかけてきた男性に声をかけた。 「トール父さん助かったよ」 「悪かったな……ジジはいつもブランには苦労をかけたから……『凄く、凄く、幸せになってもらいたい!』って言うんだ。今日はその気持ちが溢れたんだな」 「わかってるよ。母さんの気持ちは嬉しいけど、恥ずかしい」 「恥ずかしいか……わかるぞ、ブランのその気持ち」  仲の良い親子の会話だ。  この方が、ブランのお父様?  あれ?   「君がブランの大好きなヒーラギ様か……これからも、ブランをよろしく頼むよ」 「は、はい……あの、様は入りません、ヒーラギでいいです」  ブランにお父さんだと呼ばれた男性は……黒狼ではなく、優しげで、茶色の耳とモフモフな尻尾の茶色のオオカミだ。 「少し、ブランとヒーラギさんに話があるんだ。ジジの着替えも終わったろうから、話をしたい」   「わかった、ヒーラギ、家の中で話そうか」 「は、はい」  ♱♱♱  ロンさんとスラは外に残り、集まった村人に説明をして。ヤンさんとリコさんは一度、魔王の所に行くとドラゴンの姿になり、飛んで行った。  私達はブランの家で食卓のテーブルに着くと、奥からお母様がワンピース姿で現れる。その姿はブランのいう通りで、ブランのお母様は若く見えた。 「みんな、お待たせ」 「母さんは父さんの横に座って」  みんなで食卓を囲んだ。 「ワタシの名前はトール、こちらが妻のジジ。ワタシはジジが王妃だった頃、騎士団長をしておりました」  ゆっくり、私にも分かりやすく話してくれる、ブランのトールお父様。 「幾度の戦場、王城に攻めてくる魔物と戦っておりました。だが、戦いで腕に深い傷を負い……剣を握れなくなり騎士を辞め、この村に引っ越して幾日かたったある日。亡くなったと聞かされていた王妃のジジと、彼女の息子のブランに会い……過ごしていくうちに」  コボン、と言葉を詰まらせるトールさん。  フフっと笑いジジさんが。 「私が優しいトール君のことを好きになったの。だから、私から迫って、彼を襲っちゃった」 「ジジ!」 「母さん⁉︎」   「だって好きになったのだもの、我慢できないわ。それとね、ありがとうヒーラギちゃん。ブランのことで興奮していて忘れていたわ。大好きなトール君のケガを、腕のケガを治してくれて……もう一度、剣を握れるようにしてくれて、ありがとうございます聖女ヒーラギ様」 「聖女ヒーラギ様、ワタシからも感謝いたします!」  トールお父様は治った右腕をさすり、ジジお母様は隣で優しく見つめた。もう一度、二人に見つめられて"ありがとう"と、深々頭を下げられる。  ケガが治ってよかったのだけど、私は困っていた。なぜなら、この力は元々、ブランのお母様――ジジさんの力だ。 「この力は……聖女の力は私のものではありません。ブランのお母様の力で……私の力じゃないです」  そう言った私に、違うと首を振るジジさん。 「力が移った、当初はそうだったかもしれないけど……今はヒーラギちゃんの力になっているわよ。あなたが何年もの間、癒しの能力に慢心せず、精進してきたから――当時の私では使えなかった『広域回復魔法』を使えたの。あなたの思いが癒しの力を強くしたのね」 「わ、私の力……?」 「そう、その癒しの力はヒーラギちゃんの力。これからも大切に使ってほしいわ」 「はい、大切に使います」
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