タイムマシンで半世紀後の日本に行ってみた

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 公園は憩いの場か…或る日曜日の昼下がり、K博士はT公園のベンチに腰掛けながら漠然と思っていた。子供達の歓声、親子の触れ合い、ペットと散歩、デートするカップルetc…快晴だし、これだけ見ると、如何にも平和な感じだ。が、果たして50年後はどうなってるのかなと思ってK博士はシニカルな笑みを浮かべた。  研究所に帰ったK博士は、今まで秘密裏に開発を進め、この度、完成に至ったタイムマシンに乗った。目的地は50年後のT公園だ。タイムトラベルは順調に進み、パラレルワールドを幾つも経てタイムマシンが無事到着すると、確かに少子高齢化の成れの果てにやって来たとK博士を思わせるに充分以上の何物かがあった。と言うのも時間帯は同じく日曜日の昼下がりで天気も快晴だったが、子供達の歓声も親子の触れ合いもペットと散歩もデートするカップルもなく、あるのはぐったりとボロボロのベンチに寝そべっていたり今にもひっくり返りそうに地面に座っていたりボケて何も映らないスマホを覗き込んでいたりする、棺桶に片足を突っ込んだような老人らの姿だけ…おまけに花も草木も噴水も枯れ果て施設がほぼ崩壊した公園同様周りの風景も廃墟そのものだ。  老人しかいないというのは予想範囲内だったが、これはとんでもないことが起きたらしいと思いつつK博士は、タイムマシンに気づかないでふらふらになりながらも眼光鋭く一心不乱に5メートル程隔てた所で女座りしている婆さんと睨み合っている老人に話しかけた。 「爺さん、独りか?」 「何だって?」  どうせめちゃくちゃな世の中だし、耳が遠いんだろう、構うことはないとK博士は更にぶっきら棒に大声で言った。 「孫はいねえのか!」 「ああ、孫か、この世紀末的御時世だ、いねえに決まってらあ」 「そうか、子供はこの町にもいねえか」 「綺麗さっぱりいねえ」 「そうか、やっぱり…」K博士は興味が泉のように沸いて出て色々聞きたくなった。「爺さんは息子いねえのか?」 「いたが、南海トラフでやられた」 「ああ、そうか…」やっぱり起きたのか、それで荒廃してんのかとK博士は得心した。「それは気の毒に…」 「ここは圏外だったからまだ良かったが、被曝してそりゃあひでえもんだった」  原発が破損してメルトダウンしたんだなとK博士は思いつつ言った。「じゃあ、お孫さんも被爆して…」 「孫は元からおらん」 「息子さん結婚しんかった?」 「したが、子供作らんかった」 「この御時世やもんなあ」 「そりゃあ出産費用だけ出されても教育費も養育費も出さねえんだから子供産めったって産めねえよ。結婚しただけマシやった。マジで大不況が当たり前みたいな時代に生まれてよ、少子高齢化が加速して人口が激減して経済がシュリンクし続ける世の中にずーっと生きて来てよ、親戚一同南海トラフ以外にもコロナや熱中症でやられてよ、わしだけ生き残って生き地獄や」 「そうか、全ては政府の失政がいかんのやなあ」 「極めつけは先制攻撃は有り得ねえとか言っておきながらアメ公の犬だからいざとなるとアメ公の支持に従ってミサイル先に打っちまったことや。その甲斐あって飽和攻撃受けて100倍返し食らってな、そりゃあ徒でさえ干城たる軍人が底をついてるのにパトリオットミサイルで迎撃せよったって出来ねえ相談だよ。だからほぼほぼ真面に食らってよ。何せアメ公の言い値でアメ公に買わされた退役した兵器だものハッハッハ、而もよ、アメ公の奴、日本列島を防波堤にするだけで何にも助けねえでやんの。お互いよう生きてたな」  戦争までしたんか、それでこれ程までに…とK博士が勘付くと爺さんは言った。「あんた、見かけん顔やな。余所の町のもんじゃろ」 「あ、ああ…」 「あんたは子供おるんか?」 「いや、この御時世だ。不幸になるのは目に見えてるから作らんかった」 「全く冗談じゃねえ。娑婆で地獄見て御陀仏なんて笑い話にもならねえや。人がいねえから食い物も碌に届かねえ世紀末的御時世だもの」 「インフラも工場も人手不足か」 「それどころじゃねえ。疾っくの昔に各産業壊滅だ。おまけに供給ショックで食糧危機が起きただろ」  輸入が滞ったんだなとK博士は思いつつ言った。「食い物届かねえのは道理やな」 「それどころか電気もガスも水道も年金も燃料も情報も何もかも届かねえ。だからデジタル田園都市もITもAIもあったもんじゃねえ」 「で、睨み合うしかねえってか」 「って言うか、わしらなあ、最後の生き残りをかけてんだ。だから睨み合いにもなるよ」 「えっ、そこまで人口減少進んでるの?」 「そうじゃねえか、あんた、さっきから何寝ぼけたことばっか言ってんだよ。わしより全然若いのにボケてんのか!それともコロナの後遺症でブレインフォグになってねえ?」 「いやいや、俺の町はここまで酷くないから聞いたまでだ…」  国が発表した推計より10年早く出生数80万人割れしたことでK博士は取り敢えず50年後の日本はどうなってるのかと気になって行く気になったのだが、自分の予想を遥かに上回る惨憺たる有様を目の当たりにし、絶滅の危機に晒されていることを知って呆然としたままでいると、「あっ、あれ」と爺さんがタイムマシンに漸う気づいたらしく指差した。「あれ、あんたの車か」 「あっ、まあ…」 「あれって相当クラシックやなあ…何か見たことあるなあ…」  K博士は映画「バックツーザフィーチャー」に登場するデロリアンに似せて造ったことを今更ながらまずかったかなと思った。何故なら爺さんがタイムマシンと勘付いて乗りたがると思ったからだ。で、思い出される前に50年前に帰ろうとすると、爺さんは言った。 「あっ、思い出した!若い頃見たあれやあれ!」  K博士はまずいと思うや否やタイムマシンに駆け寄って乗り込んだ。その途端タイムマシンが最後の希望の光を失うように跡形もなく消えてしまったので爺さんはその場にへなへなとへたり込んでしまうのだった。  
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