5.はらぺこサキュバスと性欲の強い男エルフの仲間達

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5.はらぺこサキュバスと性欲の強い男エルフの仲間達

「これから私がいつも一緒にダンジョンに潜っている仲間を紹介しますので、そのままパーティー登録をしましょう」  手早く後始末をして、わたしが連れていかれたところは冒険者ギルドだった。わたしも一応所属している。怖そうな人がうろうろしてるからいつもはささっと行って簡単な依頼うけてさっさと帰っちゃうからあんまり長居したことはないんだけど……。 「オイオイオイ、今日はなんかずいぶん小便臭い娘連れてんじゃねーかこのクソエルフはよぉ~。犯罪だ、犯罪」 「いやいいけどさ。戦えんの? その娘。騙して連れて来たんじゃないだろうねえ」  紹介された二人は、戦士のドーソンさんとシーフのリィナさん。ドーソンさんは岩みたいに大きい男の人で、リィナさんはすらりとした女の人だ。わたしも宿からそのまま連れてこられたし、この人たちにとってはいきなりの予定変更なんだろうからいろいろ言いたいのはわかる。そうだよね、ちょっと申し訳ないな……。 「シルキィ君は私のお弁当としてついてきてもらうから、戦闘はまあ自分の身を守れればいいからね」  居心地の悪さを感じる私を覗き込んで、レイモンドさんは微笑む。 「言い方~! 要はカキタレなのになんか可愛い言い方でくるんでごまかすんじゃねえ~。俺お前のそういうとこ気に入らねえ~」 「ねえ、お嬢ちゃん大丈夫? このエルフ、ろくでなしだよ? しょっちゅう違う女連れてくるし、依頼の報酬も全部娼館につぎ込んじゃうようなクズだよ? お金に困ってるならお姉さん相談のるからね?」 「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ、二人とも私の体質のこと知ってるでしょう? それに彼女とはちゃんと契約を結んだんですからね」 (サキュバスの契約だけど……)  二人はまともな倫理観をもった人たちみたいでわたしのことを心配してくれる。リィナさんなんか、私の肩に手を当てて、じっと目を見て諭すように話してきた。お金に困ってるっていうか、精気に困ってるっていうか、騙してるのはこっちのほうかもしれないので罪悪感を感じた。わたしが悪いことしてるわけじゃない、と思いたいんだけど。 「だ、だいじょうぶです! わたし、これでも幻惑魔法とか、隠密スキルとか使えるので、最悪でも足手まといにはならないように頑張りますので!」  成り行き上この流れに乗るしかないのだ。ならちゃんと自分を売り込まなきゃね……。 「なんかサキュバスみたいな才能だなぁ~。でもまあ、幻惑使いはレアだな」 「確かに、レイモンドが限界になる度に地上に戻ってたのがなくなればもっと深くまで潜れるっちゃそうなんだけどねえ」 「ダメならリィナにまた相手してもらいたいですけど……」 「い・や・だ・ね! 二度とごめんだよ!」  あ、この二人ってそうなんだ……。そういえば冒険者仲間に相手してもらうこともあるみたいなことさっき言ってたっけな……。なんとなく嫉妬みたいな気持ちがじわっと胸に沸き上がる。わたしだって別にレイモンドさんとは契約者ってだけで、それ以上でも以下でもないってちゃんとわかってるんだけど、サキュバスの契約と産まれ持っての種族の性質がわたしの思考をちょっと引っ張っているのを感じた。わたしは絆され始めている。レイモンドさんの体しか、わたしは知らないのに。もっと知りたいな。リィナさんと軽口を叩きあっているレイモンドさんの涼し気な横顔を見つめて、そう思った。 「ああ、もうしっかり誑し込んでるのなぁ~。わかったわ。今回はその嬢ちゃんも入れてパーティ組むのでいいぜ、俺は。リィナはどうよ」 「ん……まあ、仕方ないか。あたしもそれでいいよ」 「よろしくおねがいします!」  わたしがお辞儀をすると、二人は手をひらひらさせて了承してくれた。 「決まりですね。それではパーティの申請をしましょう」  この街の近くにはひとつ、大きなダンジョンがある。新しい階層や横穴が次々と発生し、今も広がり続けている。ダンジョンの中は資材の宝庫なので、冒険者たちはこぞって潜るのだけど、戻ってこれなくなると命にかかわるため、ギルドで売っている地図に照らし合わせながら探索している。一週間に一度更新、発行されるそれはわたしもダンジョンに入るときに必ず最新のものを購入しているが、その地図を作っているのがダンジョンマッピング師。ダンジョンマッピング目的として事前にダンジョン入りを申請していない冒険者は地図にない道を行くのを禁止されている。今日は、地図にない道を行くんだ……ドキドキしながら申請書に名前を書いた。 「第六班班長、暁の子レイモンド。ダンジョンマッピングのパーティ申請をします」 「受理しました。光の加護のあらんことを」  ギルドの職員の言葉は、この国の人間たちが信じている信仰の祝福の言葉だけど、わたしはサキュバスだからあんまり関係ないんだよね……。レイモンドさんにも関係ないかも。そういえば、レイモンドさん、申請の時に『暁の子レイモンド』って名乗ってたな。それがレイモンドさんの名前なんだろうか。 「おい、俺らは水が長持ちする石とか買ってくから、ちょっと待っててくれなぁ~」 「あんた、その子に段取りとか説明しておいてよね」  ギルドからダンジョンへの道の間には、冒険者を相手にした露店がいくつも出ている。切れていたストック品を買い足しにドーソンさんとリィナさんが離れたので、レイモンドさんと話をした。 「ダンジョンに入ってすぐの入り口は十二個に別れていて、私たちは六番目の穴を担当しています。とりあえず、まずは以前マッピングで到達した所まで行きます。我々の目的はマッピングなので、宝などは基本的に無視します。その分の報酬はもらえるのでね。もちろんシルキィ君も入れた全員で分けます。宝の箱には罠があるものもあるので、うかつに変なものに触らず、異変があったら私たちに教えてくださいね」 「わかりました。がんばります」 「よろしくおねがいします、ふふっ」  ついさっき路地裏で猛っていた同士で真面目に申し送りしてるのがなんだかおかしくなって、わたしたちはくすくすと笑った。 「あの、レイモンドさんは『暁の子』レイモンド、というのですか?」 「ああ……暁の子は故郷で呼ばれていた名前で、レイモンドは通りがいいように人間の言葉で自分でつけた名前なんです。暁の子と私を呼ぶ者は今はいないので、レイモンドで通していますが」  レイモンドさんはちょっとだけ遠い目をした。そういえば、昨日宿で『上等なエルフでもない』みたいなこと言ってたっけ。何か訳ありなのかもしれないので、それ以上聞くのをやめた。 「最初の目的地まで行けたら休憩にします。そのとき私はまたシルキィ君を抱きますが、その時までは契約と関係ない手伝いをしてもらっている形なので、報酬の分け前はそのぶんの代金だと思ってもらえればいいですね」  そういわれてみたらわたしは食べきれないほどの精気と、職を期せずして手に入れた形になるのか……。そう思ったら、この人と契約したのは正解なのかもしれないな……。レイモンドさんが手を握ってきたので、わたしも握り返す。ごつごつとした感触に、喉の奥が切なくなった。  そんなことをしていたら、ドーソンさんとリィナさんが帰ってくる。 「待たせたなぁ。ちゃんと説明してもらったかぁ? 嬢ちゃんよぉ」 「はい!」 「リィナ、いい石は、買えましたか?」 「保存食も買ったよ。これでしばらく行けそうだね」 「グッドです。それでは、レイモンド班。ダンジョンに入りましょう」 「おう」 「ん」 「はいっ!」  わたしたち四人は、ダンジョンの入り口に向かった。
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