再会と別れ

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 「こちらでお待ちください」 それほど長く、貴族としての生活から離れていたわけではないのに、丁寧な言葉遣いを懐かしく感じた。 「殿下はいつ来られますか」 「申し訳ありません。お答えできません」 丁重に頭を下げてメイドは部屋から退いた。マリアは広い部屋に一人残された。金銀や宝石で飾れた上品な装飾品が首にかかり、肩に重くのしかかる。王宮に着くと秘密裏にマリアの姿を整えるようにアスターから指示が出され、マリアはなめらかな肌触りのドレスに腕を通した。  村から王宮に着くまでテオやエブリンのことを何度も尋ねたが、明確な答えを貰うことはできなかった。マリアができたのは彼等の無実を訴えながら、無事を祈ることのみだった。 「テオ、エブリン、ニナ」 小さな少女の涙を思い浮かべた。両親が連れていかれ、家が焼かれた少女は今何を思い、何をしているだろうか。近衛兵につかまらず、キース達に保護されていればいいのに。彼女を預かっていたエブリンたちも捕まったと知ったら、ニナの心を更に傷がつくだろう。侯爵領で見聞きしたことをアスターに伝えれば、エブリンやニナの両親を元に戻せるだろうか。ふとマリアは思い至り、ドアの傍に近づいた。  今の姿は金髪碧眼ではない。頭の中には王宮の地図が入っている。兵や貴族に見つからないようにアスターに会いに行くこともできるのではないだろうか。ドアノブに手を添えて、回した。 ガッ 固い音がなり、ドアノブは数ミリのみしか動かなかった。鍵をしめられている。 「アスター殿下に外に出さないように仰せつかっております」 冷静な声がドアの向こうから聞こえた。彼の声は聞いたことがあった。アスターの傍仕えのメイドだ。表情を変えることなく、どのような問題にも対処する彼女は王妃様にも重用されていた。 「そう」 こぼした言葉には想像以上の落胆がにじみでてしまった。 「殿下にお会いできないでしょうか。お伝えしたいことがあります」 「殿下には至急の務めがございます」 「そうですか」 至急の務めとはなんだろうか。マリアが王都から離れている間に国になにかあったのだろうか。否、あればアスターが侯爵領に来ていないはずだ。マリアは胸を押さえた。今になって入れ替わり魔法を使ったことが悔やまえれた。あの時はアスターのためにも、自身の為にも良いと思っていた。今はただ自身の浅はかさと愚かさに思い至っていた。マリアは恵まれていたのに、幸せを感じられないのを他の責任にしたのだ。貴族としたの責任を果たしていないのはマリア自身だったという思いに駆られ、ブラウンの瞳から涙が零れ落ちた。最初から責任を果たしていれば……。家を飲み込む炎やカバンを盗んだ痩せた兄弟、近衛兵に押さえつけられるテオの姿を思い浮かべた。 コンコン ノック音が聞こえて、マリアは頬に流れた涙をぬぐう。鍵が開いた音がして、徐々にドアが開いていく。金色の髪が現れた。
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