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下壇の三賢女
「お雛様だあ」
ガラスケースに入った二段の雛人形を目にした、まだ起き抜けでピンクのパジャマを着たままの三歳の少女は黒目勝ちの大きな瞳を輝かせた。
「この二段目の三人官女には名前があるの?」
上段の女雛に勝るとも劣らぬ下壇の三人の女人形には漢字で名前を記された立札が横に配されていた。
赤いエプロンを着けたまだそこまでの年配でもないのに白い物の目立つ頭の母親は荒れた手で娘の真っ直ぐで艶のある黒髪の頭を撫でる。
「この三人官女は真ん中の筆を持っているのが小野小町、紅梅の枝を持っているのが紫式部、白い梅の枝を持っているのが清少納言なの。三人ともとっても凄い女の人なんだから」
「そうなんだ」
「百恵ちゃんが綺麗で、賢くて、優しい女の人になりますようにってパパと一緒に選んで買ったんだよ」
隣に並ぶ幼い娘と生き写しの大きな瞳をどこか虚ろにした母親は語る。
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