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四菱家の殿は奥方様と非常に仲睦まじくあらせられて、跡継ぎの若様が一人と姫様が四人おいでになる。
既に上の姫様三人は他国や他家にお片付きになり今は末の佐久良姫様だけがお残りになっている。
と言っても姫様はまだ裳着もお済みではない十四。輿入れはまだ先のこと。
しかしこの姫様は誠に遺憾ながら不名誉な二つ名をお持ちなのだ。
そしてそれは我が桜守家にとっても非常に重大な問題となっている。
「兵衛、兵衛はおるか?」
はっ!姫様が呼んでいる。
「はい!ただいま馳せ参じます!」
矢のごとく飛んでいくと、脇息にもたれかかってぶすくれている姫様が。
「いかがされましたか?」
姫様はキッと私を睨むとおもむろに帯に差したご愛用の舞扇を抜いた。
や、殺られる?
しかし私の予測は外れ、扇の先は畳の上に向けられた。
つられて私も視線を動かす。
「桜の花びらが部屋に入ってきた。なんとかせよ。」
へ?
よく見ると畳の上にチラホラと薄桃色の花びらが。
「これはご無礼を。」
「全く。この季節は少し風が吹くとすぐこれじゃ。兵衛、城の周りの桜を全部処分せよ。」
いやいやいやいや無理でしょ。
この城は別名『桜城』なんだよ。桜で天守閣が霞むってのが全国津々浦々に伝えられてる名城なんだよ。
切れるわけ無いじゃん。
「はっ。ただ私めの一存では出来ませぬ故、殿にお伺いを立てて……」
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