佐久良姫騒動記

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 ついに。ついに完成だ。この一年の努力がついに日の目を見る。 「うぉおおおおりゃあああ!今宵決戦の刻、皆の者心して掛かれい!」  燦然と輝く一本の枝垂れ桜の前で私は雄叫びとともに右の拳を天に突き上げる。 「ははーーーーーーっ!」  ともに苦労した仲間達も私に続いて声を上げた。私を含めその場にいたもの全ての目にはキラキラと煌く涙が浮かんでいた。  私の仕える四菱家は御三家の次とは言わないまでも次の次のそのまた次のハトコくらいには地位の高い大名である。  海も山も川も谷もあるごくごく平均的な内陸の御領ではあるが、実は将軍様も羨むばかりの花の名所であったりする。春夏秋冬花のない時期が無く、おまけに温泉まで出るから湯治客やら物見遊山の客やらで年中ごった返し。  領民の納める年貢よりも観光収入のほうが遥かに多いというくらい藩の財政はウハウハ。  参勤交代の負担なんのその。殿も奥方もお子様方も、ついでに家来もおまけに領民も結構贅沢な生活をしていたりする。  そんな潤いある四菱家ではあるが、やはりそこは人間だもの。どんな家でも悩みの一つや二つくらいはあるわけで。
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