騙された男

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騙された男

「で、Hするの?しないの?どっち?」 「あの、一応やる気はあるんです」 「じゃあしたいのね」 「あ、でも、まだ迷ってるというか」 「え?したくないの?」 「だからやる気はあるんですって」 「どっちなのよ」 「やる気はあるんですけど、いざとなると踏ん切りがつかなくて」 「男なんだから、はっきりしなさいよ」 「でもぼく初めてなんですよ。どうすればいいのかもわかんないし」 「心配いらないって。私に任せれば」 「そう言われても、やっぱ不安です」 「今さらやめるなんて言わないよね?」 「確認ですけど、ほんとにぼくみたいな男でもいいんですか?」 「もちろんよ。むしろ歓迎」 「いや、でもなぁ。。。」 「なにあんた。さっきからでもでもって否定ばっかして」 「あ、ごめんなさい。でも、あ、ごめんなさい」 「なに言いたいの」 「だからあの、やっぱやめようかと思いまして」 「は?私に恥じかかせる気?」 「いえいえ、そんなつもりじゃ」 「じゃあするのね?」 「はい。お願いします」 「だったらすぐに私んとこに来て!」  静かな会議室の中、メッセージのやり取りを淡々と読み上げていた刑事はそっとスマホを机の上に置いた。 「これが、証拠だと?」 「はい。その冒頭のHって言うのは、僕たちの隠語でハント。狩りを意味するんです」 「狩りとは?」 「強盗のことです」  なるほど、と言って刑事はもう一度スマホを手に取り、文面を読み直してから、 「この相手は誰?」 「高校のころの先輩の彼女です。フルネームはわかんないですけど、ナミって呼ばれていました」 「先輩の彼女?」 「はい。卒業するまでは先輩の友達とかと一緒によく遊んでいたんです。ただ最近は全く音沙汰なくて。それでひさしぶりに連絡が来たかと思ったら闇バイトのお誘いでした」 「それが先日起きた、老人宅を襲った強盗だったと」 「はい」 「君もやったのか?」 「とんでもない」  ぶるぶると首を振ってから、刑事の手元のスマホを一瞥する。 「そこにもあるように、とりあえずバイトすることには同意したんですけど、結局ナミさんのところには行きませんでした」 「どうして?」 「怖くなったんです。そうしたら後日、ナミさんが僕のとこに来て、闇バイトのやりとりと連絡先を全部消去しろって言われて、目の前で消さされました」 「じゃあ、これは?」と刑事はスマホを指先でとんとん叩く。 「直前にぎりぎりそこだけスクショできたんです。なんとか証拠を残さなきゃと思って」 「ということは、これ以外の会話はもう残されてない?」
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