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「私は、なんてことをしてしまったんでしょう」
目の前には、倒れこむひったくり犯。私の手にはぬめっとしたナイフ。
「き、きさま」
「でも因果応報だよね、そうだよね」
普通だったら、気が動転してしまうだろう。私もあくまで護身用として持っていた折り畳みナイフ。もちろん、これだけでこんなに流血しない。
「自分の武器で死ぬのはどんな気分?」
彼の背中に刺さっているのは、犯人が持っていた包丁。
「て、てっめ」
「まあ、地獄でわめいてね」
我ながら、一年前の自分には想像もできない行動だ。
「あ、悪魔め!」
「盗人に言われたくはないわね」
そう返答して振り返るとひったくり犯はこと切れていた。
「おい、霧雨。早くいくぞ」
路地裏の入り口に男が経っていた。身長は私と変わらない160cmほど。こういう時、長身だと絵的に映えるのに。
「はいはい、わかったわ、河内」
見た目は量産型の軽自動車に乗り込む。河内がエンジンをかけ、アクセルを踏む。軽自動車に似合わぬパワフルなエンジン音が聞こえる。
「相変わらず、躊躇がないな」
「昔のおどおどしていた私が懐かしいわ。あんたが1年前救ってくれたのがきっかけなんだから責任を取ってよね」
1年前。今運転席にいる彼がひったくり犯から私を助けてくれた。その時、初めて大量の流血を見た。河内曰く、それを見てパニックになるのは普通らしいけど、その時の私は興奮していたらしい。それが、犯罪者を駆逐する河内刃(かわうち やいば)との出会いだった。
「それなら、今度のクリスマス……」
「あ、私は男性興味ないから断る」
「責任取ってとか言ったじゃねえか」
「そういう意味じゃないから。殺すわよ?」
「殺せるもんならね」
ひょんなことからヒーローになる者もいれば、ダークサイドに落ちる者もいる。
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