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1.全く好みじゃない男
「あなたのことが気になってしかたありません! 僕とお付き合いして頂けませんか!」
周りでチャカチャカと鳴っているのはプラスチックの食器。
狭くて古くて騒がしい社員食堂。
名物おばちゃんの「はいよッ、カツ丼特盛!」という声が平和に響く。
「……えっと、どちら様ですか?」
誰もが認める美人とか、引く手あまたとかいうほどではないけれど、彼氏には困ったことはない。そんなモテ度の私は森野くるみ、二十八歳。
ド平日の昼の社員食堂で持参の手作り弁当でランチ中、いきなり告白されました。
残念ですが、あなた、一ミリも私の好みじゃありません。
*
時間を戻すこと、五分。
決まった時間の昼休憩がある我が社なので、同期の愛と麻衣とでランチタイム。
私が勤めるのは社員100名前後の中小企業。
前時代的な慣習が根強く残り、限りなく黒に近いグレーの会社だと思うけれど、このご時世に、出来立てのあったかい昼定食をワンコインで提供してくれる社員食堂を運営している点だけはいいところだと思う。
と言いつつ、私はほぼ毎日手作り弁当持参で、昼休みは食堂に間借りさせて頂いてる身。
『ちりも積もれば』、五百円だからって毎日となると、薄給にはバカにできない出費なのです。幸い、料理は好きな方。
「くるみ、今度の合コンくるよね? いい人いるかもよ」
麻衣がスマホをいじりながら聞いてくる。私はいまいち気が乗らない。食べ終えたお弁当箱の蓋を閉める。
「うーん、今とくに彼氏とかいらないんだけどな」
「この前の飲み会で知り合ったB太郎くんさ、くるみのこと気に入ってるみたいだよ」
「あー、なんかよくライン来るわ」
「B太郎くん、いいじゃん。公務員だしー、性格も悪くなさそうだし」
愛が顔をキラキラさせて話に乗ってきたところに、
「お、なになに、くるみちゃん、彼氏募集中ー?」
ほかほかご飯を載せたトレーを手に、通りかかった同じ課の先輩が、聞きかじって絡んでくる。
「紹介しようかー? 俺とかぁ俺とか俺とか」
「すみませーん、現在募集は行なってなくて」
てへぺろ。
「なんだよ、それー」
正直言うと嫌いじゃない、先輩みたいなチャラっとした軽いタイプ。
大抵の局面は、ノリのよさでなんとかしちゃうというか、なんか華があるっていうか、グループの棲み分けで言うなら、中心的人物というか一番目立つポジション。
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