乱世に咲くは名もなき花

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 許昌の街に訃報が届いた。 『魏帝、崩御す』  即位してから間もない報せに、街には混乱と悲しみが渦巻いていた。  死の原因は病であったというが、民の中には「暗殺されたのでは?」などと噂するものもいた。それは、魏帝・曹丕(そうひ)が、漢室から帝位を奪ったからに他ならない。  公式には献帝(けんてい)から禅譲(ぜんじょう)を賜ったということになってはいるが、曹丕の性格からすれば何らかの形で禅譲を迫ったに違いない──というのが、もっぱらの噂だった。  大陸は未だ乱世が続き、あちこちで三つ巴の戦が続いている。北の曹魏(そうぎ)、東の孫呉(そんご)、そして西の巴蜀(はしょく)。  三國それぞれがそれぞれの想いを持ち、そしてその想いのために戦い続けている──。 「いつになったら、乱世は終わるのかしら……」  抜けるような青空を見上げながら、そう呟いた者がいた。  小柄な一人の女性。年のころは四十代といったところだ。  知らないものが見ればただの中年女性だが、彼女はかつて『中原(ちゅうげん)覇者(はしゃ)』と言われた曹橾(そうそう)の下に支えていた人物だった。
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