ある刑事の過去【前編】

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 そんなほんの僅かな隙間の世界で、二人は見つめ合っていた。  離れているので表情まではわからないが、なんとなく子供ながらに、それ以上見てはいけない気がした。  それでも俺は目を逸らさなかった。いや、逸らせなかったのだ――見つめ合う二人の横顔が、あまりにも美しすぎて。  まるで映画のワンシーンを見ているかのような心持ちだった。  ひどく遠い、画面の中だけの世界。誰も触れられない、二人だけの世界。  俺はその世界を、万華鏡の中の光景と重ね合わせた。  くるり、回すとカシャン。華が散って、また華が咲く。  もう一度カシャン。京悟(きょうご)の手が、ゆっくりと(みどり)の頬に触れる。  カシャン。涼やかな音が脳裏を激しく揺さぶる。  翠の手がそっと京悟の胸元に触れる。そのまま二人の顔がゆっくりと近づく。  カシャン。華が散って、また華が――咲かなかった。  綻んだ蕾はある時、なんの前触れもなく刈り取られてしまうらしい。  俺は、背後から忍び寄ってきた何者かに(まぶた)を伏せられると同時、そのまま意識を失った。
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