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そんなほんの僅かな隙間の世界で、二人は見つめ合っていた。
離れているので表情まではわからないが、なんとなく子供ながらに、それ以上見てはいけない気がした。
それでも俺は目を逸らさなかった。いや、逸らせなかったのだ――見つめ合う二人の横顔が、あまりにも美しすぎて。
まるで映画のワンシーンを見ているかのような心持ちだった。
ひどく遠い、画面の中だけの世界。誰も触れられない、二人だけの世界。
俺はその世界を、万華鏡の中の光景と重ね合わせた。
くるり、回すとカシャン。華が散って、また華が咲く。
もう一度カシャン。京悟の手が、ゆっくりと翠の頬に触れる。
カシャン。涼やかな音が脳裏を激しく揺さぶる。
翠の手がそっと京悟の胸元に触れる。そのまま二人の顔がゆっくりと近づく。
カシャン。華が散って、また華が――咲かなかった。
綻んだ蕾はある時、なんの前触れもなく刈り取られてしまうらしい。
俺は、背後から忍び寄ってきた何者かに瞼を伏せられると同時、そのまま意識を失った。
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