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森田霞の9
退院した俺を待っていたのはあの日浴びせられた、傷口が痛む視線だった。
上手く歩行ができなくなった俺は右足を引き摺りながら街を巡り、居場所のなくなった会社からは体よく自主退職を勧められた。
「その体じゃ思うように仕事が出来ないだろうし森田の負担になるだろう」
俺を気遣うフリをして面倒事を排除しようとする上層部。
たがしかし、間違えた事は言っていない。
周りよりも歩くスピードが遅く、顧客はほとんど事件の内容を知っている。
時間も気も遣わせ、関わりたくないと思う人間が多数だった。
面と向かって言われる事はないが、誰もが俺を腫れ物扱いした。
酒の肴にされた。
自業自得だ。全部己の行いが招いた結果。
だから俺は受け入れた。
初めて書く退職届。
何から書き出せばいいのか分からずペンを握ったまま縦に伸びる罫線を見つめた。
「先輩、俺のせいですいません…」
昨日、珍しく溝口が真剣な顔で頭を下げてきた。
いつもヘラヘラしている人間の真剣な顔はより深刻さが濃くなる。
溝口のせいではない。全部俺のせい。
ってわかっているのに本心は少しだけこいつに擦りつけたいと思ってしまった。
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