矢口冬彦の1

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呼吸も乱れず、ただ静かに泣く俺は今どんな顔をしているのか。 顎を伝い落ちていく涙の粒が冷えた手の甲に落ちて跳ねた。 カラスが鳴いている。もうすぐ朝になる空に薄い橙色が混ざり始める。 夜明けは寂しくなる。 いつからだっけ?空が白み始めると心がざわつき始めたのは。 夜中の通知音。女の名前と新着メッセージの表示。「気持ちよかった笑」の文字。 あの日からだった。俺のザワザワが酷くなったのは。 それからしばらくしてお前は無料通話アプリのメッセージ表示を非表示にしたんだ。 新着メッセージがあります。これだけが表示される様になった。 日に日に胸のざわつきやモヤつき、胃がひっくり返る様な吐き気が酷くなっていき、薬の数が多くなっていった。 だから俺も知る事にした。
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