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どうしてあの時俺を飲みに誘った?
どうしてあの夜店の女を誘った?
どうして水野さとみと巡り合わせた?
湧き上がる責任転嫁。
そんな自分が嫌になる。
結局、腐った根は腐ったままなのか。
根本がそのままの自分にハッとする。
そして作り笑顔を貼り付けて首を左右に振った。
「お前は悪くない。謝るなよ」
ちゃんと矯正しなくちゃ。
これからはちゃんと生きなきゃ。
俺のその言葉に溝口の強張った表情筋が少し緩んだのがわかった。
その緩みを見て、パフォーマンスだったのだと言う事もわかってしまった。
「ところで、彼女とは仲直りできたのか?」
グズグズと痛む胸を必死に堪えながら話題を変える。
俺にそう聞かれた溝口は緩ませた表情筋を再び強張らせた。
間違いなく、地雷を踏んだ。
「…振られちゃいましたよ」
散々に遊んでいたくせに、まるで被害者の様な顔をする溝口が滑稽だった。
「なんで?」
「セフレが妊娠して。それが彼女にバレまして。まぁ、俺の子じゃないかもしれないんすけど。パパ活してるような子なんで」
気の毒だと思った。彼女さんを。
溝口は大きな溜息をつき、苦笑いを浮かべる。
そして一言「バチが当たったみたいです」と呟いた。
きっと溝口も気づいてしまったのだろう。
自分のしてきた愚行に。
「森田さん?」
「ん?」
まだ痛む傷を腰に感じながら溝口の呼び掛けに返事をすると、いつも通りのヘラっとした声で言われた。
「因果応報だるいっすねー」
軽快な声色には似合わない、泥池のような目をして溝口は笑った。
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