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* * *
「嫌いでいいんじゃないですか?」
その言葉に、私の意識は戻される。
目の前に座っている彼は、ホールケーキの乗った皿を横にスライドさせた。
「ちなみに、僕は誕生日ケーキが嫌いです」
驚いて彼の顔を見ると、無邪気な笑顔をこちらに見せていた。
「考えちゃうんですよ。なんで自分だけ普通に歳取ってるんだろうって」
吐き捨てるように呟いてから、彼は椅子の背もたれに寄りかかった。視線は少し上を向き、何もない天井を見つめていた。
「未来って、もっとキラキラしてるもんだと思ってました」
しばらくすると、彼は天井に向けてポツリと言葉を発した。
「でも、未来はそんな単純なものじゃない。何回も枝分かれした先にあるのが未来で、辿り着いた先にあるものが自分が望んだ未来とは限らない……キラキラになんか光ってなくて、それに一生苦しめられることだってある」
そう言われて、私は自然と窓の外を眺めた。春の日差しをいっぱいに浴びた桜の木が、そよそよと風に揺られている。風はさほど強くないはずなのに、桜の木からは次々と花びらが離れて散っていった。
その姿を綺麗だと感じる人もいるだろう。だが、いまの私にとって、その姿はとても悲しく思えた。
「たとえ納得いかない未来だったとしても、生きてかなきゃいけないんです。僕たちは」
視線を移すと、同じように桜を眺めている彼の姿があって、口元に持っていったコーヒーカップを目一杯傾けていた。
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