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駅を出たら、右に折れる。
そのまましばらく商店街を歩いていると、焦茶のレトロな喫茶店が見えてくる。その佇まいにほっとしながら、僕は扉に手を掛けた。いわゆる"行きつけ"である。
扉に備え付けられたベルが鳴ったと同時に、コーヒーの香りが鼻をかすめる。オレンジ色の温かみのある光に、これまたほっとしながら、いつもの席に腰を掛けた。
「ご注文お決まりでしょうか?」
白いニットの上から、黒いエプロンをかけたいつもの彼女が、後ろで束ねた髪を揺らしながら、僕の席に近付いてくる。
実のところ、今日言うことは最初から決めてある。
僕は前のめりになって彼女に尋ねた。
「これ、夢ですよね?」
予想通り彼女は驚いていたが、しばらくしてから、首を縦に一回振った。
「夢です」
彼女の表情は固い。
それでも僕は、彼女の口から出てきたその言葉にひどく安心した。
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