たまごの憂鬱

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 ボクは冷蔵庫の中にあるたまごである。ボクが、そして同胞たちがいる位置は、扉の内側スペースにある。その中ではボクは一番、左上の端側である。  とあるスーパーに売ってた1パックのたまごの1個であるボク。ごく普通の家庭を持った主婦に買われて冷蔵庫の中に置いてもらって………。  次々と、いなくなっていく同胞たち。右側から1個1個と料理に使われ、最後がボクだけに、もしくは2番の同胞だけになると。  それから数日後。  ガチャっと冷蔵庫が開く音、主婦が入れているのは野菜と肉、その他の調味料。そしてまた1個、1個と補充されていく同胞達。  今回はボクは使われなかった。そんな時もあるさ……と、次こそはボクが使ってくれると期待しつつ、ピシャリと冷蔵庫の扉が閉まり、ひんやりとした漆黒が広がる。  さらに数日後。  ガチャと扉が開き、たまごコーナーから使われていく同胞達。同胞達が変わる料理、それは様々だ。目玉焼き、ゆで玉子、TKG、オムレツやパン、たまに手作りをするときプリンなどの材料に行き着く。ボクにとって、パンやケーキの材料に使われるのが本望だ。 (ボクはどのような料理に変身するのだろうか……)  ワクワクと、ボクは期待するのである。  しかし、1週間、2週間、3週間………ボクはいつまでもたまごコーナーに居座っている。何故なら主婦が残り2個か1個になると新たなたまごが補充され、左上のボクは未だに使われないでいる。 (なんで、どうして使ってくれないんだよ?)  ボクは訴えるのである。いい加減、ボクを料理に使ってくれと。  冷蔵庫のたまごの中で3週間も並んでいるのは年長者に値する。ボクか最後になるタイミングになると次々と補充され、未だに使ってくれないボク。 (おい、このままでは孵化するぞっ)  と、食材を次々と補充する主婦に投げかけるように嘆くボク。買ったたまごが孵化してヒヨコになる事はありえないが、この生命を頂いている身として食材を大切にしろ。と、主婦に、そして全ての人に言いたい。  冷蔵庫がドアが開く。主婦は買い物カゴからスーパーで買って来た食材を手に取り、入れていく。  またしてもボクが最後に残り、タイミング悪くさらに次々と野菜やお肉など、補充されていく新しい同胞達。新しい同胞達が料理に使われ、古いたまごのボクは使われない。  まるで悪魔の呪いにでも掛かっているかのように。1ヶ月近くになれば、ボクは冷蔵庫の中では禁忌と化しているかのように、手に取られなくなる。 (このまま料理に使われないまま腐っていくのか………)  ピシャリと冷蔵庫の扉が閉まり、漆黒の中でつぶやくボク。  いつものように眠るボクは夢を見ていた。それは養鶏場にて、親の顔も知らないメスのニワトリから生まれたボクは、多くのたまごが入ったカゴを作業員に仕分けされて各都道府県に出荷され、そしてスーパーに陳列されていくまで過程である。こうなることなら、普通にたまごから産まれ、ヒヨコからニワトリになっていた方がいい。しかし、それも叶わない。  そして家族団らんで賑わう食卓、今日も冷蔵庫の中ではボクは次こそはと料理に使われる機会を待ち望むのである。  ボクは絶対に諦めない。たまごコーナーに並ぶ1個のたまごでは異彩な威圧感を放ちながら。  
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