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☆ 「あけましておめでとうございます、横宮さん」 今日の第一声は、やっぱりこれだ。 お正月には残念な薄曇りの下、 えいやっと声を張りあげた私に、 お隣さんは至極穏やかに返してくれた。 「あけましておめでとうございます。 …その紙袋は?」 「お裾分けです。今、お餅が大量にありまして」 「いいの? ありがとう」 「はい。……それと元日早々ですが、 横宮さんに訊きたいこともありまして」 「ああ、えっと……お年玉なら、まだ準備が」 「違いますー!」 私が横宮さんにお年玉要求したことなんてないでしょうに。 反射的に返してから、しまったと反省する。 これじゃあ昨年のくり返しだ。 「どうぞ、栗ちゃん」 招き入れる横宮さんが何食わぬ顔をするから、 私も悔しさを隠して靴を脱ぐ。 それでもなんだかもやもやして、 お裾分けは冷蔵庫一杯に敷き詰めてやった。 積雪のように他の食材を覆い隠す切り餅に、 ひとまずすっきりする。 お餅三昧に巻きこまれた家主さんは少々困惑していたけれど、そこは私も知らぬふりだ。 居間の畳は温かで、 こたつにはこぢんまりと鏡餅がのっている。 「そういえば……横宮さんって、 帰省とかしないですね?」
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