10人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
☆
「あけましておめでとうございます、横宮さん」
今日の第一声は、やっぱりこれだ。
お正月には残念な薄曇りの下、
えいやっと声を張りあげた私に、
お隣さんは至極穏やかに返してくれた。
「あけましておめでとうございます。
…その紙袋は?」
「お裾分けです。今、お餅が大量にありまして」
「いいの? ありがとう」
「はい。……それと元日早々ですが、
横宮さんに訊きたいこともありまして」
「ああ、えっと……お年玉なら、まだ準備が」
「違いますー!」
私が横宮さんにお年玉要求したことなんてないでしょうに。
反射的に返してから、しまったと反省する。
これじゃあ昨年のくり返しだ。
「どうぞ、栗ちゃん」
招き入れる横宮さんが何食わぬ顔をするから、
私も悔しさを隠して靴を脱ぐ。
それでもなんだかもやもやして、
お裾分けは冷蔵庫一杯に敷き詰めてやった。
積雪のように他の食材を覆い隠す切り餅に、
ひとまずすっきりする。
お餅三昧に巻きこまれた家主さんは少々困惑していたけれど、そこは私も知らぬふりだ。
居間の畳は温かで、
こたつにはこぢんまりと鏡餅がのっている。
「そういえば……横宮さんって、
帰省とかしないですね?」
最初のコメントを投稿しよう!