事件前

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

事件前

 思えばあれは何かの知らせだったのかも知れない。  一家の存続を揺るがした『あの事件』の前、私は奇妙な夢を見た。  夢の中ーー。  何処かの土手道だろうか。新緑や菜の花の緑が美しい。  私は3年前に亡くなった祖母と自転車の二人乗りをしていた。祖母が前で私が後ろにしがみ付いている。  自転車はリヤカー付きで、そちらには母や親戚が乗っている。  そこに父は乗っていなかったと思う。    リヤカー付きで重いはずの自転車を、生前病弱だった祖母が軽々と運転してるのは不思議な感じだった。    ふと、祖母は私の手を取って言った。  「ここ、持ってろよ。」  後部の私に自転車のハンドルを握らせる。  急に運転を頼まれて戸惑う私。  あたたかい春風を顔に受けながら、自転車のバランスをどうにか保ちながら一定の速度で走る。  そんな所で目が覚めた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!