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叔父さんはきゅうりを一本食べきって、大きく息を吐いた。
「そんなわけだからさ、サクラちゃんには本当に申し訳なかったと思ってるんだ。怖い思いしただろうしね……」
「いや、多分覚えてないと思います。桜、3歳かそこらのはずだから」
「だといいんだけど」
そう。
オレだって記憶が曖昧なのだ。
2歳年下の桜がそれほどハッキリ覚えているわけはないだろう。
でも……
叔父さんの言うとおりなのだとしたら、どうしてオレたち病院なんて探したのか。
思い出せそうで、だけど何かがひっかかる。
そんな歯がゆい気分だった。
「あ!そうだ、大事なこと話すの忘れてた」
叔父さんが突然声をあげ、パッとオレを見やる。
「望くん、今年の誕生日プレゼント何がいい?」
「え?」
誕生日……。
オレの誕生日は8月。今は7月。
そうか、もうすぐと言えなくもないか。
「例年通り、家庭で飼育できる昆虫にしようと思っていたんだけど、望くん受験生じゃん?
あまり手をわずらわせるようなものはよくないんじゃないかと思ってさ」
「あー……」
昆虫研究者の叔父さんらしく、プレゼントは毎年生きた虫だった。
虫の寿命は短く、大抵はひと夏……もって秋の終わりくらいまでだ。
オレはそんな儚さを感じながら、毎年楽しんで飼育をしていた。
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