cherry blossom【清純】

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……そうだ。桜に聞いてみるか。 迷子のときのこと。 さっき叔父さんに言った通り、まだ小さかった桜は忘れているだろうけどな。 オレは桜に簡単なLINEを送った。 子供のとき迷子になったこと覚えているか、と。 するとすぐに返事が帰ってくる。 『おぼえてるよ!』 と、少し予想外の言葉。 『探検してたんだっけ』 『お巡りさんに保護してもらったよね』 『私、いっぱい泣いちゃったよ』 ポンポンと送られてくる桜の言葉。 ……でも、桜が覚えている内容もオレとあまり変わらない。 「病院探していたことは覚えているか?」 そう送ると、『うーん』と首をかしげたペンギンのスタンプが返ってきた。 『そんなことあったっけ』 『望ちゃん、よくおぼえているね』 「………」 そりゃそうだよな。 オレだって覚えてないんだし。 「……ま、別にいいや」 迷子のことはこれ以上こだわらないでおこう。 昔のことだし。 それほど大事なことだとは思えないし。 ……でも。 病院の白い壁。パリッとしたシーツ。薬のにおい。 それから 『大丈夫だよ、望くん。すぐよくなる』 そう頭をなでてくれた、シワのある手。 それを妙に懐かしく思い出していた。
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