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「じゃあ、次は市倉くんの番だね」 「ん?」 「他人の理由を聞いたら自分の理由も話すのがマナーだよ」  並べた作品をもう一度片付けて、奥村は新しいキャンバスを探しながら言った。もう次の作品に取り掛かる気だろうか。  ちょっとは休憩したらどうだ。そう言うつもりだった。  休憩がてら僕とおしゃべりしないか、と。 「奥村のことが好きなんだ」  ぴたりと彼女の動きが止まる。思惑通りだ。図らずも。  僕にとっても想定外だった。まさかこんな唐突に告白してしまうなんて。口が滑るとはこのことか。いや口より喉、喉より声帯か。待て落ち着け。今どうでもいいだろそんなこと。  だが滑ってしまったものは取り返せない。もうすべて話してしまうしかなかった。僕は口をなんとか動かす。 「一目見たときから僕はお前のことが気になってて、でもお前は桜のことばかり見てて、だから僕は桜のことが嫌いになったんだ。いやどんな三角関係だよ」 「セルフで突っ込まないでよ」  焦ったばかりに早口な僕の台詞に、奥村はようやく身体の自由を取り戻したようだ。  真っ白なキャンバスを持ってきてイーゼルに置く。それから椅子に座って、ひとつ息をついた。 「そっか。だからいつもここに来てたんだ」 「おや? なんだか迷惑そうな言い方だな?」 「そんなことないけど……いや正直言うと気が散るなと思ったこともある」 「えっ、楽しく喋りながらでも絵を描ける器用なやつじゃなかったのか」 「買い被りすぎだよ」  急に彼女の顔が見られなくなった。  罪悪感で頭が重い。確かに僕は自分の感情を優先させて彼女の迷惑を考えないようにしていた部分はある。確信犯である以上何の言い訳もできない。  あれ、僕嫌われる理由あるな? 「でも『おつかれさま』って言ってもらえたのは嬉しかった」
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