ほのかな期待(橙堂 side)

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自分の経験がこんなところで役立つのは嬉しいような、寂しいような。赤坂くんは話を聞いて引くどころか、衝撃的な事実を打ち明けてくれた。彼の好きな人が気になって仕方ない。 誰にでも優しくて対等で、色んなタイプの子達と話せる赤坂くん。俺や黒井くん、黄崎くんも性格が全然違うのに、みんな彼に恋をした。それだけ魅力のある人なんだ。 和臣も彼と似ている。優しくて朗らかで、女性人気もあった。性格は違えど、包容力のあるところや人に寄り添えるところがそっくりだ。和臣と過ごしていた日々が蘇ってくる。 「大した話はできなかったと思うけど、俺も赤坂くんの力になれるよう応援するね」 「……ありがとうございます。先生に言えてよかったです」 赤坂くんは目を細めて、静かに笑った。いつもの無邪気なものではない、大人な笑みだった。歳もかなり離れているのに、年上の俺が彼にドキドキしてしまっていた。 今年の初詣には4人で行った。参拝で俺が願ったのは『どんな形であれ赤坂くんと一緒にいられますように』。恋人になれなくても、教師と生徒の関係でもいいから、ただそばにいたい。それが俺の願いだ。 そしておみくじではなぜか恋愛運が非常によかった。“今年は諦めていた恋が実るでしょう。どんな時も決して落ち込まないで。貴方の最愛の人は、ずっと貴方を想っている。飾らないで、ありのままの貴方で。”と書かれていた。こんな叶わない恋をしているのに……。大人気なくも素直に喜びを感じた。 失恋してもう二度と恋をしないと決めていたのに、赤坂くんと出会って思わず恋に落ちてしまった。想いは募るばかりで、触れてしまったこともあった。だけど色んなことがあって、こうして今がある。 この先に終わりがあるのか、それとも……。赤坂くんがどんな道を選んだとしても、俺はずっとここで待っていよう。俺にできることは、終わりが来るその時まで、彼を想い続けることだ。 冬の美術室は、彼の笑顔で暖かく満たされていた。
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