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Last man standing
8畳ほどの部屋。壁は金属ともプラスティックとも言えない俺の知らない素材だ。少なくとも木ではない。床はふかふかなのだがこれまたなにでできているのかわからない。見上げれば3メートルほどの高さの天井は全体が明るく光っている。
明かりは一定時間で徐々に明度を落とし、最後には真っ暗になる。そこからまた時間が過ぎると今度は少しずつ明るくなり始め、やがて元通りの明るさに戻る。その繰り返しだ。それが昼夜を表していると気づいたのは、ここに閉じ込められて三日目のことだった。
今はあれからどれくらい経過しているのかわからない。最初はちゃんと日数を数えていたが、それもだんだんどうでもよくなってしまった。体感では軽く一ヶ月以上はいるはずだ。
一方の壁には扉らしきものはあった。しかし取っ手も蝶番もないので開くのかどうかわからない。その足元、床から50センチほどの高さの位置には小さな窓が設けられており、そこから定期的に食べ物が送り込まれてくる。と言ってもそれは元がなにかわからないようなぐちゃぐちゃの代物で、味も何もしない。ただ空腹感を満たすのと、栄養補給のためだけのもののようだ。
部屋の片隅には箱が置かれていた。中には小さな粒状のものが詰め込まれていた。便意を催した際、我慢できずにこの中に用を足したのだが、それが正解だったようだ。排便した後は、俺が寝ている間に必ず箱の中身が入れ替えられていた。猫や犬のトイレのようなものだろう。
ベッドや布団の類はないが、床が柔らかい素材なのでそこでじゅうぶんに眠れた。気温も暑くも寒くもなく快適だ。ただ、身体を洗えないせいであちこちが痒い。
確か、俺は一人で海辺を歩いていたはずだ。魚を獲るために。そこで記憶は途切れている。そして気がつけばここにいたのだ。全裸の状態で。
いったい誰が何のために?そしてここはどこなのか?毎日頭に浮かぶ疑問だ。
床に寝転がり、天井を見上げていると、視界の端でなにかが動いた。
え?と思いそちらを振り向くと、幕が上がるように、扉が音もなく開き始めていた。
飛び起きて身構えるうち、隙間は一メートルほどの高さで止まった。
出ていいのだろうか?そう思いつつ一歩踏み出そうとしたところで身体が固まった。 なにかが入ってきたからだ。
全身毛むくじゃらで、四速歩行だったそれは、扉をくぐって中に入ってくると二足歩行へと変わった。
俺と目が合う。
え?チンパンジー?
その後ろで扉はすばやく閉じた。
思わず後ずさり、気がつけば背中を壁に押し付けていた。
猿は警戒するように俺のことをじっと見つめたまま、壁際を時計回りにゆっくりと歩き始めた。
俺も距離が縮まらないよう、相手に合わせて壁沿いに移動していく。
どういうことだ?なんでチンパンジーが?誰か説明してくれよ!
並んだ複数のモニターを見つめるひとつの影があった。その影にもうひとつの影が近づき問いかけた。
「どうだ?順調か?」
「いや、まだお互いに警戒していますね」
「危険はないだろうな?」
「なにかあったらすぐに眠らせる準備はできていますから」
「気をつけてくれよ。大切な最後のホモサピエンスなんだからな」
「わかっています」
「しかし君のアイデアにも驚かされるよ。絶滅寸前のヒトを復活させるため、もっとも近縁種のメスのチンパンジーと自然交配させようとするなんて……」
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