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「アルベルト社長も大分ご苦労されたのではないですか?」
記者の質問を受け、アイナの隣にいたアルベルトがマイクに口を寄せた。
「いえ、アイナはなんでもできるすごい女性で、僕はただその熱意に惹かれ、尻に敷かれながら働いていたら、いつの間にかここにいたという感じです」
どっと笑いが会場に溢れると、別の記者が追加の質問を促した。
「パイロットには息子さんが任命されていますね」
「はい、私達の大切な一人息子です。名前は義父の名を継ぎ、エドガー二世としました。そして……義父の遺志を尊重して、ギルディ連邦のパイロットも搭乗しています」
コクピットにいるエドガーとギルディ連邦のパイロットが仲良く手を振る姿が、スクリーンに映し出された。
会見を締め括るように、アイナが最後に言葉を添えた。
「私達家族はこの終戦記念日に、父の悲願を実現できたことを誇りに思います」
「……そろそろ飛行船離陸の秒読み開始となりますので、会見はこれで終了とさせていただきます」
司会がアナウンスしてまもなくすると、カウントダウンが開始された。
水蒸気ロケットエンジンが始動し、飛行船の後部から白煙が噴き出す。
秒読みが三、二、一、ゼロと終了すると、飛行船はカタパルトデッキから射出された。
白鯨のような巨体は澄み切った青空に浮かび上がると、美しい山脈と豊かな森林風景の中に溶け込んだ。
それはかつての『ヴィートバウ号』が蘇ったかのよう。
飛行船はさらに上昇し、雲を抜けて深い藍色の空間へと進んでいく。
やがて視界に広がる漆黒の闇と煌めく星々の瞬き。
エドガーはタイバス船長の写真を取り出すとコクピットのガラス窓に向けて、写真をかざした。
「お爺ちゃん、見えるかい? 『ヴィートバウ号』はここまで飛ぶ事ができたよ。これからもっと広大な世界を目指して、俺達が飛行船を進化させていく」
ガラス窓には雲海の波がそよぐ青い楕円体がゆっくりと回転する情景が映っていた。
世界最初の宇宙飛行船、その始まりの時——
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