万年桜は今日も咲いている

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「悪くはないけどね。もったいないよ。こんなにキレイなものが一年中あるのに」  唇を尖らせるわたしをよそに、好香はその場で屈み、花びらの絨毯に両手を入れた。年がら年中桜が咲き誇るこの町では、そこかしこに桜の花びらが溜まっている。それを掬いあげると、好香はパッと宙に打ちあげた。  ピンク色の花火が爆発した。  目がチカチカし、頭がくらくらする。 「ううー、気持ち悪っ」 「わっ、ごめんごめん。やりすぎた」  たまらずうずくまるわたしの背を、好香が撫でてくれる。  好香はいい子だ。けれども、わたしとは対照的に桜がものすごく好きだった。まるで虜にされてしまったかのように。  顔を上げると、小高い丘を覆い尽くす桜の木々が視界に飛びこんでくる。忌々しいほどに満開の万年桜が。  万年桜。樹齢推定五百年。この桜乃上町ができる前から、その根をこの地に生やしていたらしい。そして、その花は一年をとおして咲きつづけている。ゆえに、人々はこの桜を神聖視しており、祭っている。そして年に一度、桜花祭という催事を執り行っている。  社会の授業で聞かされた話を思いだしながら、わたしは好香の肩を借りて起きあがった。
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