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無傷の勲章(染井絹)
カーテンの隙間から漏れる光が夜のものになったから、ふと死にたくなった。
二年以上努めているアルバイト先で大失敗を犯したからもう二度と出勤しないで済むために、死にたくなった。
明日の二限は小テストがあるから、つまり翌週には小テストの返却があるから、死にたくなった。
もうすぐ本気で就活を始めないといけないから、理想通りの就職なんてできる気がしないから、どうせなら死にたくなった。
かっこいい恋人をつくるのも、それなりの収入がある人と結婚するのも、かわいい赤ちゃんを産んで育てるのも、その子どもがまともに成長していくのもなんだかできる気がしないから死にたくなった。
何もかもがうまくいくなんてはずもないから、そのうまくいかなかった瞬間に立ち向かうのが恐ろしくて、死にたくなった。
将来のことを考えると、生きているほうが難しい。二秒先さえ不安なのに、数年後の話とかされても意味わかんない。
持続可能な社会って、なに? そもそもわたしは社会に持続してほしくないし、おそらくだけど百年後の人とかも別にってかんじだと思う。まあ、これはわたしが勝手に言ったけど。
横スクロールのアクションゲームを思い出してほしい。けっきょく人生の略図ってあれだから。
進んでいくと大小様々な敵がぽこぽこ次から次へと現れて、倒したり倒したり倒されたりする。倒されたら、残機を減らして再スタート。
数多の障害物を乗り越えて、いよいよ満身創痍で辿り着いたらボスが本気で倒そうとしてくる。ここは一筋縄ではいかないから何度か挑戦して、運良くボスを倒したと思ったら──おめでとうございます、次のステージです。この繰り返し。
うん、やっぱりさっさと死んだほうがいい。うっかり二十年以上も生きてしまったけど、これは生きてきたというより死ねなかっただけだ。
死なない限り生きちゃう仕組み、誰が作ったのか教えてほしいし作った理由をわたしに納得するまで説明してほしい。
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