不如帰の卵を育む

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経験が、記憶が、環境が、同じ条件の遺伝子を持つ一卵性双生児に作用し、違う存在として成立する様に、息子のクローンを作ってもけして同じものになりはしないのだ。 目の前の男がと答えたのはその為だろう。 けれど、そうであっても。 似たものが異星の、地球とはまるで違った生態系を育む中に存在したら。 自発的に、クローンとしてそっくりな形質を持ってくれるなら。 私がそれを植え様と心に決めたのにも不思議はない。 五歳の息子に擬態させるのだ。 接ぎ木されたスイカはその果実を喜ばれる。だが根を請け負う冬瓜は、存在さえも人々に意識されない。本来ならば結ばぬとされる実には毒があるから、まかり間違って口にした人は苦しむ事にもなるのに。 でも、その知識を持つ者は少ない。 稀にしか起こり得ぬ事故など、興味がなければ意識の内にさえ入らないのだ。 人はどうあっても世界の全てを知り得ないのだから。 そして、どんな生物であれ、自身が繁栄して行くには他の生物と場所を奪い合うのが道理なのだ。それが動かぬ様に見える植物でも、活発に動くかに見える動物でも。 握らされた包みの中、静かに息づく命に戸惑いよりも希望を見た。
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