不如帰の卵を育む

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次いで咲き残るクロッカスの花弁(かべん)に触れて、感慨深げにぽつりと漏らした言葉に繊細な一面を垣間見る。 「青いバラには奇跡の花言葉があったけれどね、薄青の桜には後悔ってついたんだよね。もっとも後悔の花言葉を持つのは、カンパニュラやこの紫色のクロッカスにもあるけどね」 ごく自然な動作で立ち上がる姿には、彼が曾祖父のクローンなのだと言う貫禄は余りない。 むしろ、今年五つになった息子持ちの私よりも若々しい姿。 不老化の手術を受け、宇宙開拓民となった彼に老いはなく、不慮の事故でもない限りその命は散りはしない。 最も過酷な職業に就くべき人材として育成され、その最前線で優に数百年の時を経て来た彼には、他者に辛苦を見せる弱さはないのかも知れないが。 正直言って、彼の血統に自分自身が含まれている自覚は余り持てないでいる。 強靭な精神も、崇高な意志も、豊富な知識も、彼ほどには兼ね添えていない私には。 「次はどちらに行くのでした」 「この天の川銀河を超えて、遠く遥かに。もう会う機会はないね、残念だ」 振り返って微笑んだ彼の肩越しに、枝垂桜が五分咲きの花弁をそよぐ風に揺らされている。 未だ、多くの花は蕾の桜と、咲き終わりの近いクロッカス。 言葉が、上手く表せない。
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