行ってきます。

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行ってきます。

……これで、よかったんだ。これで、お姉ちゃんは救われたんだ。そうとわかっていても、涙がとまらない。 帝都でアルベールに会って、お姉ちゃんのことを話した。お姉ちゃんの中の穢れを浄化して、お姉ちゃんを元に戻して欲しいと。 でも、ダメだった。穢れを浄化することはできても、穢れに染まってしまった精霊を元に戻すことは出来ないと言われた。他に方法は無いのか必死に探したけど、何も成果は得られなかった。 だけど、浄化の力でとどめを刺せば、普通に殺されるよりも楽に死ぬことが出来る。穢れが浄化されるから、安らかに眠れる。 どちらにせよ、お姉ちゃんを殺すという選択肢しか、私には無かった。だから、アルベールにとどめを刺してもらう選択肢を選んだ。お姉ちゃんを、これ以上苦しめたくないから。 お姉ちゃんがいた場所に近寄る。草陰の中にキラリと光るものがあった。よく見ると、それは古びた懐中時計。お姉ちゃんがいつも持っていたものだ。 開けてみると、フタの裏側には昔二人で撮った写真が貼り付けてあって、隅には 「ネリアとずっと一緒に、幸せにいられますように」 と書いてあった。 お姉ちゃんは、自分が自分じゃなくなっても、私のことを忘れてしまっても、二人の思い出だけはずっと持っていてくれていた。 そう思うと、もっと涙が溢れてきて、とまらなかった…… 亡骸は無いけれど、お花畑の真ん中に小さなお墓を作った。お姉ちゃんは確かにここにいたんだという印だ。お姉ちゃんと私の、たくさん思い出の詰まった場所だから。 「この平原の穢れは全部浄化できたよ。 ……そろそろ、行こうか」 「……そうね」 私はこの平原を出て、アルベールと旅に出る。お姉ちゃんのように、魔獣になってしまった精霊を元に戻す方法を探すために。私のように、大切な人が魔獣なってしまって悲しんでいる人を助けるために。 苦しむ人をみんな助けることが出来たら、必ずまたここに戻ってくるから。お姉ちゃんとの思い出のこの場所に。 「行ってきます。待ってね、お姉ちゃん。必ず戻ってくるから」 そう言って、私はお姉ちゃんの懐中時計を握りしめて、新しい仲間と共に、歩き出したーーー
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