きゅう

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きゅう

 柑橘系の香りと質の良い家具、触り心地の良いシーツ……目が覚めるとフォックス殿下の寝室だった。  隣にはラビットを抱きかかえて、眠るフォックス殿下。  シュチュエーション的にはよいのだけど、思いだすのは、彼の…………うわっ、おもいださないでぇ。  ポフン。  黒ウサギから戻ってしまった……まだ寝ているフォックス殿下を起こさないように――って。目があった……どうやら、起きていたみたい。 「綺麗だ、ラビット」   「み、みないでください、フォックス殿下……ふ、服を貸してください!」 「うん、いいよ」  フォックス殿下はポフン……狐になってシャツを渡してくる。そうじゃなかったのだけど、いいかと受けとり着たけど、さいきん彼は獣化しすぎだと思う。 「フォックス殿下、あまり獣化されまと……」 「ん? 俺が獣化すると、どうなる?」  ――どうなるって。 「……王族は原種の血が濃いので野生化してしまうと、本で読みました」 「よく知っているね。僕の為に勉強してくれたのかな。……それについては対策済みだから、心配いらない」  獣化に対して対策済み? ……なら、よかった。  ゲームだと、野生化したフォックス殿下は元に戻れず苦しんでいた。 「ごめんね、ラビット。僕は君を離せない……君があの子と僕を、何故かくっつけようとしていたのは知っている。正直、僕もあの子をはじめて見たとき、一瞬だけど気持ちがぐらついた」  気持ちが、ぐらつく?  2人がはじめて出会う、イベントでかしら?    そのあとから、2人は惹かれていく。 「ぐらついたのはその時だけ……」  真剣な瞳で見つめられて、元に戻ったフォックス殿下に手を引かれ、ベッドへと組み敷かれる。 「ラビットは僕のトリガーだ……他の令嬢達が怖がるなか、狐の姿になっても近付き撫でてくれた」 「そ、それは、わたしが獣化するからです」  ううん、違うと首を振る。 「ラビットはたとえ獣化しなくても、僕を受け入れてくれたと思う。狐姿の俺をみたときの"あの"にやけた顔は一生忘れられない」  にやけた顔? 「わたし、フォックス殿下を見て、にやけたのですか?」 「うん。はじめて顔合わせで5歳の君は「うわっ、キツネしゃんだ! 可愛い」って、ニィーッて、にやけながら走ってきた」  ニヤけながら走るって……記憶のない、わたしもやるわね。前世、あなたがいたから"ひとりぼっち"になっても、笑っていられた……あなたから、元気をたくさんもらった。  だから、フォックス殿下には幸せになって欲しい。
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