1/1
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

 届いたアップルルでパイを作り、キョン父と森に住む精霊達におすそわけした。その翌日、私は再び『呼び鈴』を鳴らして、前から読みたかったお菓子の本を担当者コルに頼む。  薬草に関する本ではない事に驚いた様子だが"お菓子の本ですね""了解いたしました"と彼は言った。頼んでから、待つこと1時間。家横の転移魔法陣にお菓子の本が数冊も届いた。 「ケーキの作り方、クッキー、パンケーキ! いいわね」  たまにはクッキー、パンケーキなどのアップルルパイ以外のお菓子も作ってみたい。もし失敗しても、キョン父は文句を言いながも食べてくれるし、精霊達もお菓子は喜ぶ。   「そうだ、魔女協会に引き継ぎの書類を出さなくっちゃ」  魔女銀行の必要な書類と手続きの書類を、魔女協会にフクロウ便で送れば引き継ぎは完了かな? 本を読む前に私は書類を集めてフクロウ便で魔女教会へと送った。 (これでよし)    三日後――魔女協会で書類が受理されて、私はリネン森の正式な魔女となった。まぁリシャン母が帰るまでだけど。 「よし、今日は森の珍味。メロンキノコをかけてキョン父と対決するぞ!」  メロンキノコは甘いキノコ。そのまま食べてもいいし、蜂蜜をかければ更に美味しくなる――絶品キノコなのだ。いつも独り占めするキョン父に、リネン森の魔女となった記念に勝負を挑んだ。  ――はい! 娘だからと父は手加減せず、数秒でコテンパンにやられました。 「娘は詰めが甘いな、魔法もまだまだ弱い。もっと、強く、面白い魔法を使え」   「クウッ、私にはアップルルがあるからいいもん!」  完全な負け犬の遠吠えである。  ⭐︎  早朝。リリン、リリンと呼び鈴が鳴った。私はさっきまで調合室で爪に塗る薬を製作していたので、お昼過ぎまで寝ようと思っていた。 「クワァ――っ〜。今日は何かあった?」  壁にかかる予定表には何も記されていない。ポストに王族からの依頼者も来ていない。「間違えたのか?」もう一度ベッドに潜ろうとしたがリリン、リリンと呼び鈴は私を呼び続けた。 (うるさい! ……寝起きの髪、ヤバいのになぁ)  私の髪はセットしないとチリチリに爆発するから、ツユツユ草から採れる髪にいい薬をつけて、いつも爆発を押さえている。……後、メガネ、メガネ……(素顔隠しの)丸メガネ装着して、パジャマの上からローブも羽織った。 「おはようございます……なんの誤用ですか?」  通信鏡を覗いた先にキラキラした、担当さんよりも身なりがいい見知らぬ若い男性がいた。その男性は私を見て目をしかめ、大袈裟なため息を吐き。 「これが薬師の魔女か? 話によると年上の美人のはずだが? こんな"ちんちくりん"とはな……話と違うではないか」 「……ち、ちんちくりん?」  それ初対面の人に言う事? と言おうと思ったが。  艶やかな長い黒髪、切長な黒い瞳、スタイル抜群、生粋の魔女リシャン母とは違い――ちいぱい、短身、赤毛の爆発ヘアー、丸メガネ、頬にソバカスもある平凡顔だ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!