青春短歌劇場

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 高校の卒業式を終え、いよいよ明日。  私は上京する。  窓の向こうでは桜の花びらが一つ一つクリアに、緩慢に散っている。  憂鬱に感嘆を混ぜた吐息をガラスに吹き付ける。  街灯に照らされる桜の木は、昼に見るよりも幻想的でずっと好きだ。  夜に沈む背景に白の純度が増して発光したように青みを帯び、時の流れを緩やかに感じさせてくれるから。  薄藍に桃白を咲かす桜木はきっと、夜は別次元に還っているんだろう。    フワフワと可憐な花に対し、老熟した枝と幹は神の御手のように荘厳で、沈黙の中に確固たる生を息吹かせている。  桜は桜色。  だけど夜桜の色は照明や月照で様々な色に移ろい趣向を凝らし持て成してくれる。  私の家から望む桜木の幽玄には、虫が集る街灯が一役かっていた。  と、そんなとこはとても現実的だ。  そしてもう一つ。  クレセント錠を回してガラス窓を横に滑らせる。  徐々に広がる隙間からワッと喧騒(現実)が飛び込んできた。
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