5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
そう思った途端、俺のモチベーションは一気に落ちた。
ペースダウンした俺に、目の前のモブおじさんが「頑張れ! もっと頑張れ!」と応援してくれる。無理ぃ。だって相手、多分マリパパだもん。俺嫌われたくないもん。
そしてペースは戻ることなく、ピザの大食い選手権は終了した。
食べたピザの枚数は、俺、8枚と半分。10番、9枚と4分の1。
大きなお食事券のパネルを持つ主催者に促され、俺と10番はステージ中央に並んで立つ。
初対面でプロレスマスクか。マリパパ、怖いよ……。
どんな表情をしていいのかも分からずに俯いていると、マントがはらりと床に落ち、プロレスマスクが10番の手の中に見えた。
会場が大きくざわめく。俺も顔を上げて、驚いた。
「マリ!?」
隣に立っていたのは、体にクッションを巻き付けたマリだった。
「なんで!? なにその格好!?」
「ごめんね。いつか言わないと、って思ってて、今日が良い機会だなって。私……実は、すごく大食いなの!」
いや、そんなの今はいい。
「マリパパは……?」
「あ、パパあそこ」
ステージ前で、笑顔のかわいいモブおじさんが俺に手を振る。俺を応援してれてたおじさんだ。
「……なんだぁ……良かった……安心した」
「私、大食いでも嫌いにならない?」
「え? 全然。大好き」
「良かった!」
安堵で座り込んだ俺に、マリは赤ラメのプロレスマスクを差し出した。見上げると、彼女の目は、真剣そのもの。
「私と、結婚してください……!」
「……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
予想とは全然違う終わりだったけど。マリパパも「おめでとう! おめでとう!」と泣いている。
それ以外の観衆も笑顔で、会場全体から祝福の拍手が鳴り響く。
ま、いいか。
終わり良ければ、全て良し。
***
それから俺たちは、仲良くJOJO玄亭の食事を楽しんだ後、結婚した。
マリもたくさん食べる子だと分かり、今は夫婦でフードファイターをやっている。
あの時のプロレスマスクはどうしたって?
男女兼用サイズの他に、来年の春にはベビーサイズも買わなきゃね、って話してる所さ。
完
最初のコメントを投稿しよう!