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「俺、これに出てみようと思うんだ」
俺の差し出したピザの大食い選手権のチラシを見て、マリは目を丸くした。
「これって、駅前のコンビニに貼ってあったアレ?」
「そう。『優勝者にはJOJO玄亭の10万円お食事券』。マリ、いつもこれ見てただろ? 俺、優勝してマリに焼肉をプレゼントするよ!」
見た目こそ平均よりやや細身だが、俺は米8合程度なら平気で食える大食いだ。
マリはいつも俺の横で「少しでいいの」とほんの少量しか食べない。細いマリがいつか倒れてしまうのでは……と俺が不安になるほど。
けれど、美味い肉なら食欲も出て、沢山食えるかもしれない。俺はマリと一緒に「美味しいね」と笑い合いたい。
そしてもし、優勝できたら、俺はその場でマリにプロポーズをしようと考えている。
「もし、優勝できたらさ」
「え? なぁに?」
「いや、ふふ。聞いて欲しい事があるんだ」
気持ちが先走りして、うっかり言ってしまった。内心焦った俺に、マリは察したように「私も」と微笑んだ。
***
大会当日。マリの「パパも見たいって言うから、連れていくね」の一言で、俺はガチガチに緊張していた。
初対面がピザの大食い選手権で良いのだろうか。「パパ優しいよ」と言っていたけれど、はたしてパパは娘の彼氏にも優しいだろうか。優勝したらその場でプロポーズしようとしていたが、パパの目の前でやっていいものだろうか。
待ち合わせ場所で悶々と悩んでいると、笑顔のマリが1人で駆け寄ってきた。
「遅れてごめんね。パパ、来てるんだけどトイレに篭っちゃって……」
……マジか。それは俺に対して「認めない」という意思表示ではないのか? やはり彼氏には厳しいパパではないのか?
「パパの所にいくね」とマリは離れていった。それから15分程たった頃、参加者集合のアナウンスが流れた。
俺を含む参加者達に数字入りゼッケンが配られ、各自順番にステージへと上がっていく。
周りを見回すと、大食い選手権に出るだけあってガタイの良い奴らが多い。その中で3番のゼッケンを受け取った俺は、かなり細くて目立つ存在だ。
ステージ上の席に着席した時、会場がざわついた。
最後の10番の姿が異様だったのだ。
フード付きマントを頭からかぶり、更に顔は赤いラメのプロレスマスクで隠されている。
身長はそれほど高くないが、マントの膨らみを見る限り、体格はいかつい。
有名なフードファイターなのだろうか。
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