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かれこれ一時間にはなるだろうか。
陰気臭く薄暗い部屋で、ボソボソと二人の女子トークが展開されていた。
「アンタが昭和昭和って弄られてんなら、アタシはどうなんのよ」
「えー、童子ちゃんの起源て江戸時代くらい?てか、もう天然記念物みたいなもんじゃん」
「それな。AIが活躍してる令和に、まだわざわざ泊まりでアタシに会いたがるアナログ人間がいるとか、すごくね?」
座敷童子は、その家に繁栄をもたらす妖怪として 古から大切にされている。
近年ではその気配を感じてみたいと、童子の家に宿泊までする観光客が後を絶たない。
「超うらやまー。アタシなんていつも お笑いのネタにされるか、バカバカしい都市伝説って言われるのがオチじゃん?童子ちゃんとはなんか、格が違うっつーか」
この二人の女子の間には、明らかな格差が存在していた。
「まあまあ。口裂けちゃんもいまだに人間に愛されてる証拠だって!」
座敷童子が慰めの言葉をかけると、ガックリ肩を落とした口裂け女は 盛大な溜め息をついた。
尤も、彼女の顔は目から下が巨大なマスクで覆われていて、吐き出した息の行方もわからないのだが。
「アタシさー、リベンジしたいんだ」
「リベンジ?」
「昭和のオモシロ妖怪じゃなくて、童子ちゃんみたいに伝説妖怪になりたい。
──ねぇ、アタシ キレイ?
──キ、キレイっす
──へぇ……こんな顔でも?
そう言いながらマスクを外して、耳まで裂けたアタシのこの口を見せる。
もう一度、シンプルに世間を怖がらせる感じ?そしたらさ、ビビったヤツが写真付きでSNSに投稿するっしょ?」
「なる、その手があったか!」
「まさかの炎上がないように、鎌で切りつけるとか物騒なのは封印すんの。もしバズったら、アタシは昭和の笑える都市伝説じゃなくなるじゃん!」
口裂け女は眉間に皺を寄せる。
「だってさー、"ポマード"って三回叫んだらアタシが嫌がって逃げてくとか、100メートルを6秒で走るとか訳わかんない噂がいっぱいあるんだよ?そりゃ ネタにされるって。アタシ、ポマードなんて何か知らないのに」
「そういや、アタシも知らない」
「とにかく、童子ちゃんに協力してもらいたいことがあって」
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