一章 男装の少女と不思議な軍人

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「我々はずっとその人物を探していた。そして、遠田が君を見つけたというわけだ」 「……成程。しかし遠田さんは、何故僕だと確信されたのでしょうか。妖が見えるというだけで、(くだん)の人物かどうかまでは分からないと思いますが」  話が一段落ついたところで、由宇は遠田に顔を向け、ずっと引っかかっていたことを訊ねた。  いくら凛子と話していたところを見られたとは言え、人前に姿を見せずに依頼を遂行していた由宇のことを知られていたのがどうにも腑に落ちなかったのだ。  すると、遠田はどこか得意げに簡単さ、と口角を上げた。 「目撃情報を拾ったんだよ」 「目撃情報?」 「数日前だったかなあ。手当たり次第に当たってたら、少し前に髪を一つに結った書生みたいな少年が、人気のない路地から出て来たのを見たっていう人がいてね。詳しく聞いたら、その路地は化け物が出るって噂があったけど、少年を見かけた日から噂がばったり途絶えたって言うじゃないか。これは何かあると思ったよ」  ――しくじった。  由宇はほんの僅かに顔を顰め、目を伏せた。  その路地はおそらく、一週間ほど前に行った現場だ。  「夜になると、闇の向こうから大きな獣のような影が現れ、通る人々を襲う」という噂が最近になって出始めていた。最初は皆単なる噂だと高をくくっていたようだが、徐々に行動が苛烈になっていき、実際に怪我をした者まで現れると反応は一気に変わった。  化け物を退治してほしいという依頼が幾つも情報屋に寄せられ、由宇が出向くことになったのだ。  深夜、様子を見るため路地裏に行くと、そこではまさに「化け物」に追い詰められている男性がいて、由宇は咄嗟に持っていた刀を振るい、妖の気配を纏っていた「化け物」の首を切り落としたのだ。  もしもこれが理性を持つ妖であったなら、何のために人を襲っているのかを聞き出せていた。だが、由宇が事前に調べた情報や襲われた人の証言、加えて現場の状況を踏まえると、あの妖は正気を保てておらず、話が通じるとも思えなかった。  これ以上、被害者や犠牲者を出さないためにも、あの時の判断は正しかったと今でも思っている。  その後、気絶していた男性を凛子に大通りまで運んでもらい、自分たちは別の出口から出てその場を去った。のだが、どうやら周囲の確認を怠っていたらしい。まさか誰かに見られているとは思わなかった。 「それからその人に少年の背格好や雰囲気とかを聞き出して、それらしい子を探していたんだ。いやあ苦労したよ。一口で書生って言っても、帝都にはいろんな人が沢山いるからね。やっと見つけたと思っても全然証言と違ったり、妖が見えなかったりって外しまくって。でも、今日やっと君を見つけ出せた」  嬉しいよ、と笑みを浮かべてこちらを見下ろす遠田は本当に嬉しそうに見える。しかし、人並みの感性を持つ者なら思わず(ほだ)されてしまうであろうその表情に、由宇は全く惑わされていなかった。
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