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「俺、思ったんだ。最初に見えたのは灯だったけど、もし灯の顔だけ見えないままだったとしても、俺は灯のこと好きになってたと思う。灯の嘘のない気持ちは、顔見えなくてもきっと、ビンビン伝わってきたと思うから。」
「それ、すごく嬉しい。」
にやけながらいうと、颯人がクスクス笑いながらキスをした。
私たちは目を開けて、見つめ合ったまま、もう一度キスをした。
自分が映る颯人の目に見えたのは、揺るがない、確かな想いだった。
そして私の目にもきっと、同じ想いが映っていて、それが颯人に見えているに違いない。
私たちが出会って、私たちに見えたのは、それだったのだ。
「もう、熱出なくなるかな?」
颯人に訊くと、
「俺もそんな気がする。焦りみたいなのが消えた。」
と微笑まれた。安心して息をつくと、颯人が急に真顔になった。
「でも、嫉妬させるようなことしたらまた熱出ると思うから。」
「ぇ・・うん、気を付ける。」
「浮気したら、数週間は寝込むと思う。熱下がらないかもな。」
「あ・・うん、浮気しないから安心して。」
「別れようとしたら、心臓止まるんじゃないかな。」
「あれ?なんか私が脅されてるように聞こえるけど、これ使えるかも。」
「どういう風に?」
「颯人に浮気とか心変わりの疑惑が浮上したら、別れ話してみればいいんだ!」
「俺が潔白だったら死ぬやつだ。」
「あ、そっか。じゃ、私が浮気してみる。」
「俺が潔白だったら寝込む上に、無駄に浮気されるやつだ!」
「んー、じゃ、嫉妬くらいにしとく?」
「ものによる。」
「たとえば?」
「ポテトのシェアはダメ。」
「・・ぇ。」
「終電まで話し込むのも、笑顔で見つめ合うのも、2人きりで会うのもダメ。」
「久留生さんのこと、まだ根に持ってるの?」
「虎太郎とすごく仲いいのも本当はヤダ。」
「なるほど。おかゆとスポーツドリンクとアイスは、冷蔵庫に常備しておこうね。」
「えー。」
颯人がわざとらしく拗ねた顔をして見せ、私は笑ってしまう。クスクス笑いながら、私たちは布団の中でじゃれ合う。嘘のない、気持ちのままの表情で。
<了>
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