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◇
あの夜、僕は一人で家に帰った。
僕達の方が先に終わって、余韻を楽しみたいと言う渚さんに断りを入れ、僕は服を着た。
その間も隣室からは志帆の声や音は聞こえたが、僕は感情に密栓をした。
ソファの上では、肌色の渚さんが気の抜けたビールを飲み始めた。鴨居に掛けたコートはそのままにして、僕は先にアパートを出た。
玄関の扉を閉める間際に、志帆の一際大きな声を初めて聞いた気がした。
◇
就職してもうすぐひと月という頃、志帆からメッセージが届いた。久し振りに会おう、という内容だった。
元日以降、僕等は一度も顔を合わせず、あの日の三人とは連絡をとっていなかった。
意識的に遮断していた訳ではないが、志帆に連絡する気にはなれなかったし、向こうからも何も無かった。
別々に地元に戻ったが、人伝てに志帆が就職先の学習塾でちゃんと働いている事は知っていた。
今年初めて、二人のメッセージアプリが動いた。志帆からの「会おう」というメッセージは、あの日以前と同じように可愛らしいスタンプで飾られていて、僕はすぐにその晩の約束に返信していた。
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