たまご

3/3
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「何でそう言えるの」  と聞くと、 「楽しいから」  と一言だけ返ってきた。  それだけじゃ納得できなくて、どうしても納得できなくて、夜遅くにまた私はルイくんに質問した。 「そこは、ほんとに大丈夫?」  すると、ルイくんは、 「大丈夫。」  と返してきた。 「ここはとても居心地がいいから」    そうなんだ。  私は思った。  もう、違うんだきっと。  私はルイくんと、遠くかけ離れてしまったのかもしれない。  ルイくんは立ち止まってなんかなくて、ずっと歩き続けていたんだ。校舎の外へ。その先にある世界へと。  制服を脱ぎ捨てたルイくんと、最後の最後まで制服を身にまとっていた私。  固い殻の内側にいたのは、もしかしたら私の方、だったのかもしれない。  私は、ルイくんの写真展に行くことにした。  写真展は三月にあった。受験勉強は後期試験が近づいていて、私は片時も暗記ノートが手放せない。写真展にも携えていく。  何が遠回りで、何が近道なんだろう。  そもそもゴールが分からない。  今の私は、夢も目標もはっきりしないまま、ただやみくもにがんばっている。目の前のことを頑張れば何とかなると、それしかないから。いつか、何かが見つかると、信じたいから。  だから。  だから、ルイくんには幸せになってほしい。  証明してほしい。何があっても、どんな道のりをたどったとしても、きっと未来にハッピーエンドと呼べる瞬間が訪れるということを。  そしたらそれが、私の力になるって、そんな気がするんだ。  写真展は、私が抱いていた東京のイメージとは違い、古くて小さなアトリエでやっていた。すでにお客さんが何人か、出たり入ったりしている。  入り口のところに、ルイくんが見える。仲間らしき人たちと、おしゃべりしてる。  面と向かって話すのは久しぶりだ。緊張する。ちゃんと、声出るかな。 「ひさしぶり」  と、ルイくんの方から気づいてくれて、ほっとした。 「来てくれて、ありがとう」 「ううん。ルイくん、背、伸びた?」 「うん。まだ伸びてる気がする」 「うそ。すごいね」  ルイくんは明るく笑った。  それを見て。私はなぜか、涙が出てきて。何か言わなきゃ。って思って焦った。  でもほかには何も思いつかなくて。  私は、 「よかったね」  って、ただそう言ったのだった。 おわり
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!